貴方に弾丸を
その弾は彗星の様に英斗に放たれるも、当たる直前英斗の装備『フェニクスの兜』の危機察知能力が英斗に危機を知らせる。
悪寒と共に危機を感じた英斗は咄嗟にしゃがみ込む。頭がさっきまであった空間に銃弾が通り過ぎ、そのまま地面に突き刺さる。弾は見えないくらい地面にめり込んでおり、その威力が伺えた。
あそこか!
英斗は加地とは反対側にある1㎞以上離れたビルの屋上から放たれたことに気づく。どうやら誘われていたことを悟った英斗は、怒りに任せた自分を恥じる。
屋上には加地の右腕ともいえる小柳が陣取っていた。スキル『狙撃手』を持つ狩人である。
「ワオーーーーーン!」
英斗を殺そうとした小柳に激怒したナナは、矢のような速さでビルへ向かう。
「嘘……完全に意識は加地さんに向いてたはずなんだけどなぁ。凄い察知能力だ……銀狼もこっちに気づいたしまずいな。いったん引きますよ、マスター。ご武運を」
小柳は一瞬で見切りをつけ、ビルから飛び降り逃げ去る。ナナは小柳を追ったが、ナナの鼻をもってしても狩人を捉えることはできなかった。
小柳の『狙撃手 』には擬態の力もあったのだ。その擬態の精度は高くナナすら欺いたのである。
「完全に死角からだったはずだ……! 化物め」
加地は影で浮遊する槍を生み出し、放つと自らも影製の剣を持ち襲い掛かる。英斗は影で壁を作り受け止めると、加地の剣を影で生み出した剣で受け止める。
剣戟がいくつか交差した後、加地の剣が砕かれる。 加地はすぐさま地面から手を生み出し、襲うも全て剣に切り裂かれる。
「なんだ……もう万策尽きたのか? どれだけ大口を叩いても、俺には傷一つ付けられないんだな」
英斗は静かな冷たい目で加地を見つめる。
「ぐぅ……調子に乗るなよ雑魚がァ!」
加地の周りの影は全て一箇所に集中し、一つの全長7m程の巨大な影人形を生み出した。英斗も同様に影人形を生み出す。だがこちらのサイズは先ほどより一回り大きい全長10mを超えていた。
二つの巨大な影人形が激突する。まるで巨人同士の殴り合いである。やはり英斗の影人形の方が力も強く、蹴りを受けた加地の影人形がビルに叩きつけられる。
建物が壊れる轟音と共に、ガラスがそこら中に飛び散る。この音により周囲から魔物が集まってきていた。
英斗の影人形が、ビル内に倒れ込んでいる影人形に馬乗りになり止めを刺す。
「まだだ……もう一体生み出せば……」
再度影人形を生み出すも、サイズは3m程しか無い。一瞬で蹴り飛ばされ霧散し、英斗の影人形の一撃が加地に突き刺さる。
鈍い音と共に、加地が吹き飛びビルに叩きつけられる。骨が何本も折れているのであろう、悲痛な表情で顔をあげた。
英斗は加地に近づき、倒れ込む加地を上から見下ろす。
「まだやる?」
至近距離に来た英斗を襲おうと、影を生み出そうとした瞬間、腹部に英斗の影の棘が刺さる。
「グフッ!」
腹部から血が溢れ、真っ赤に染まる。
「いいのか? こっちには人質が居るんだぜ? そいつらがどうなってもいいのか?」
「こちらの別動隊が既に向かっている。じきに解放されるだろう」
英斗は淡々と告げる。
「……分かった、俺の負けだ! あいつらも全員返す。これからそちらを襲ったりもしねえ。なんならこっちから人を出していい! だから、助けてくれ!」
加地は諦めたのか、頭を下げる。
「俺の頭を地につけて土下座させるのを楽しみにしてるんじゃなかったのか?」
英斗は冷ややかに言う。
「あれは……失言だった。済まねえ……この通りだ」
加地が頭を地につけて土下座する。
加地はこの場さえ乗りきればこちらのものだと考えていた。後日小柳を使い暗殺でもすれば良いと、頭を巡らせていた。
「自分が何したか分かっているのか?」
「分かった! すべて話す! 実はお前らを攻めたのも――」
そう言った瞬間、加地の頭部に銃弾が刺さり消し飛ぶ。英斗にも血がかかり、辺りが血だらけになる。射線の先を見ると、既に小柳の姿は無かった。
「おいおい、小柳は加地の部下じゃなかったのかよ。なんてことしやがる……。加地はいったい何を話そうとしてたんだ」
血を拭きながらも英斗の頭は謎で埋め尽くされていた。この戦いを描いた黒幕がいると確信していた。
『ごめんえいと、にがしちゃった』
ナナが項垂れながら戻ってきた。
「いや、あれは相当の手練れだ。仕方ないよ」
ナナを撫でながら言う。
色々考えることがあったが、弦一達が心配だったので探しに向かった。