皆の思惑
一方英斗達の抗争が始まる寸前、青犬のメンバーはユートの耳を頼りに連れ去られた人々を探していた。
「うーん。話聞いとる限り、普段あちら側で働かされてるらしいけど、今日はあそこの建物に閉じ込められてるらしいわ」
ユートがスキル『耳』を使い、中野区民の話を聞き情報を集める。ユートが指さした先には2階建ての小さな会社のような建物があった。
「なるほど。月城さんが自ら体を張って戦っているのに、こちらが失敗しては目も当てられん。絶対に助け出すぞ」
青犬のマスター尾形朋が真剣な声色で皆に伝える。他のメンバーも一様に頷いている。皆前々から助けたいと思っていたのだ。
「戦闘になったら、ユートお前は離れろよ。俺がトップとやる」
「朋ちゃんおおきになー。流石に戦闘系スキル持ちには敵わへんから他の方に任せるわ」
ユートは笑顔で言う。
「前方にいるのは多分榊んとこのクランやなー。加地のクランは全部月城さんとこにいっとるみたいやね」
「私の力の出番ね」
そう言ったのは、青犬メンバーの一人、成宮心だった。20歳で茶髪、ふわふわした髪が特徴の元女子大生である。
心の体から鱗粉が発され、見張りの男に少しずつ流れていく。5分程鱗粉を発し続けた結果、男は眠りについてしまった。
「よしっ! 行きましょう」
心のスキルは『蝶』。蝶のようなスキルが扱え非常に応用が利いた。見張りが眠りに就いたのを確認した後、正面から中に入る。
中を探すと、閉じ込められていた人達はすぐ見つかった。
「助けるのが遅れてすみません……もう大丈夫です」
尾形が縄を解き、話しかける。
「尾形さん、ありがとう……」
助けられた人々は今まで不安だったのか、泣き始める。
「朋ちゃん! だれかこっち来てるで、ばれたわ!」
ユートが叫んだ後急いで全員の縄を解いていると、後ろから扉が開く音がした。
「君達……杉並区の者か」
そこに現れたのは、榊達である。
「連れ去られた者を助けに来た。邪魔をするなら、女でも容赦はせん」
尾形が臨戦態勢に入ると他の者も続けて構える。
「待ってくれ、戦う気はない。やはりこれはうちが悪い……。私が無理にでも暴挙を止めておけば……今更何を言っているのかという話だが。彼らを連れていってくれ」
榊は申し訳なさそうに言った。
「榊さん、そんなことしたら加地の奴に何されるか!」
部下だろう男が榊を心配して反対する。
「これは加地の暴走を止められなかった私達の責任だ。この行動の責任も私がとる。お前ら、道を空けてやれ」
榊は神妙な顔で道を空ける。
尾形は罠か一瞬疑ったが、その表情を見て素直に臨戦態勢を解いた。
「お前ら、救出した人を連れていくぞ」
尾形達が皆を引き連れて部屋から出ていった。
弦一が戦闘した所は どこも黒炎で燃え盛っており、まるで地獄のような状況だった。
「弱いな……中野ギルドのレベルが知れるぜ」
弦一は倒した敵の上に座りながらため息をつく。そこには雄二を含む50人以上が全員倒れていた。気絶している者や、火傷を負い倒れている者など様々である。
弦一が腰を上げると、加地の部下が英斗の下へ向かっているのが見えた。
「お前ら、そっちは通行止めだ」
そう言って弦一は英斗へと続く道に黒炎で壁を作り封鎖する。
「誰だ、あいつ。杉並区の奴か!」
弦一に気付いた部下達は、武器を持ち弦一に襲い掛かってくる。その数は30人ほどであった。
「鳳仙火」
弦一は両手から小さな黒炎を放射状に放つ。その黒炎に当たったものは取れることの無い黒炎に驚きつつ、転がり始める。
「あ、熱い! 消えねえぞ!」
弦一の黒炎の恐ろしさは、消えないことと、伝染することにあった。黒炎に触れた者にも黒炎が移るのだ。
固まっていた彼らは瞬く間に皆火だるまになる。弦一は小さな黒炎球を生み出すと、奴らに放つ。
これにより彼らは更にパニックになる。段々倒れていき、残った者は命乞いを始める。命乞いをしてきた男の顎を蹴り上げて気絶させると、弦一は黒炎を解除する。
「本当骨の無い奴等だぜ」
弦一のスキルは、殲滅力においては英斗を超える可能性すらあった。
「月城さんがあんな雑魚に負けるわけねえだろうが、他の奴等はどうなってるかね。邪魔が入らないように付近見張っとくか」
弦一はそう言って、英斗の戦闘に邪魔が入らないように、付近を見張ることに決めた。
第40部分に閑話を入れました。大きくストーリーに影響が出ない日常回なのですが、良ければ読んでください。