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総理大臣の長い一日

今日から2話だけ別視点です。別視点が終わったら2章までの登場人物一覧も投稿予定です。

 世界の文明が崩壊した日、日本中の人はパニックに陥った。だが、その中でも少しでも状況を良くしようと尽力していた者も居たのである。


 日本のトップも例外ではない。第101代内閣総理大臣春田弥彦(はるたやひこ)も首相官邸で公務の真最中であった。齢は60を超えており、髪には白髪が混じりつつも、顔つきは凛々しく、未だに現役なのが窺える。


「なんだ、この揺れは!」


 弥彦は席を立つとすぐ、再び大きな地震が起こる。凄まじい轟音は弥彦に未曾有の大災害を予想させるには十分であった。


「分かりません。ですが、電気系統はやられてしまったのは確かなようです」


 弥彦の声に反応し、内閣総理大臣秘書官、妻夫木(つまぶき)忠正(ただまさ)は答える。40代でまだ若いが、その実力を認められ秘書官に抜擢されたエリートである。年の割に若く見え、髪はオールバックである。


「被害状況を確認しろ、すぐに緊急会見を開く」


「かしこまりました、すぐに調べます」


 妻夫木はすぐさま被害状況を確認するため席を立ち、各地に電話をかける。弥彦も少しでも状況を確認するため電話をかける。だが、途中で電波が繋がらなくなってしまう。少しすると妻夫木が青ざめた顔で戻って弥彦に伝える。


「被害は甚大です。謎の怪物がどうやら暴れまわっているようです。そして霞が関の主要機関は全て謎の巨樹に潰されました……」


「何を言って――」


 弥彦が言葉を発しようとした瞬間、脳内に機械音のようなアナウンスが流れる。


『あなたのスキルは指導者(リーダー)です。自らのスキル名は忘れないようにしてください、指導者です。では良い人生を』


 脳内に突如流れ出した機械音のようなアナウンスに驚きを隠せない。


指導者(リーダー)? いったい何を言っているんだ……。悪戯ではない……のか?」


「総理、今のアナウンスを聞きましたか? 我々の理解を超えることが次々と起こっています。一刻もはやく対処をしなければ……」


「常識に縛られてはいけないな……実際今おかしいことが次々起こっているんだ。通信は全て駄目か?」


「はい、電気も通信も全てやられています」


 2人が話していると、部屋の外で待機していたSP(セキュリティーポリス)が扉を開ける。


「お逃げください! 化物がこちらに向かっています!」


「何っ!?」


 弥彦達が扉の先を確認するとそこにはオーク数体が、こちらに向かっていた。


「本当に化物が……」


 弥彦は一瞬だけ動揺するも、すぐに動揺を隠し妻夫木に命令する。


「動ける者を集めろ。すぐに情報の収集に向かう」


 SPはオークに銃を放つ。腹部に複数当たるもそのまま突っ込んでくる。


「化物め……人間を舐めるな!」


 SPは特殊警棒でオークの頭部を殴打し、その顎を蹴り上げる。バランスを崩したオークに至近距離で頭部に銃弾を撃ち込む。


 SPはまだ自分のスキルすら把握せずレベルも1であったが、それでもオークを討伐できたのは日頃の鍛錬のなせる技であろう。


 SPは複数居たが、一人とも欠けること無くオークを全滅させた。


「今のうちに逃げましょう、総理が亡くなられては立て直しもできません。すぐに核シェルターへ向かいましょう」


 総理官邸の近くには非常事態用の核シェルターが近くに設置されていた。


「少しでも情報を集めさせろ。シェルターの稼働も視野に入れる」


「はっ!」


 何十人という護衛が情報を集めるため、各地に散らばる。弥彦達はSPに守られながら、官邸内で安全な場所に移動する。


「これは他国からの攻撃でしょうか?」


「馬鹿なことを言うな……こんな力が軍事転用されていたらとっくに世界はその国の物だ」






 しばらくして各地から情報を集めた者が戻ってくる。


「基地局は全てやられています。謎の巨樹と、空飛ぶ怪物により壊滅状態でした」


「省庁も全てが巨樹に破壊されています。巨樹の被害が無いところも全て地割れにより破壊されています」


「警視庁も同様です。被害を逃れた警察官は市民の安全のために動いていますが……銃だけではやはり化物相手には心もとないかと……」


「自衛隊はどうなっている?」


「通信が切断される前の情報になりますが……同様に巨樹と地割れに主要な兵器は潰されたようです……」


「明らかにこの巨樹は主要な施設を狙っている……作為的に生み出されているぞ」


 弥彦は侵略者による行動なのではないか、と思い始めていた。そうでないとここまで主要施設が潰されている説明がつかなかった。


「核シェルターを開放する。市民をできる限り助けながら、核シェルターへ向かう。そこで今後について考えるぞ」


 だが、一方的な侵略者による仕業なら、なぜ謎の力を与えたのだろう、渦巻く疑問を抱えながら一同は核シェルターへ向かう。車道は事故車だらけで移動できなかったので、走りながらの移動である。走りながら弥彦はSPに尋ねる。


「誰か先ほどのスキルにより変わったか?」


「私は『格闘家(ファイター)』だったのですが、それ以降近接戦闘の動きが良くなった気がしますね」


「化物を倒してから体が熱くなり、少し体が強くなった気がするんですよね」


 SPからの報告は様々である。


「そうか……市民が襲われている! 救出せよ!」


 ゴブリンやオークに襲われている市民を助けながら向かう。


「首相……これ以上救っていては、守り切れません」


 何十人も市民を連れての移動になり、移動速度が明らかに低下している。


「分かっている……」


 連れて移動している市民からも非難が出る。


「あんた総理大臣なんだろ! 今どうなってるんだよ! 早くなんとかしろよ!」


「私の夫は化物に食べられたのよ!」


「申し訳ありません、ただいま対応しますので……」


 弥彦が悪いわけではないことは分かっている。だが、皆不安で避難できる先を探していたのだ。


「皆さん、シェルターが見えて参りました!」


 そこは皇居にある核シェルターである。皇族用ではない、別の核シェルターを使用するつもりであった。


 皆が安心して歓声をあげた瞬間背後から人が吹き飛んできた。


「キャーーー!」


 女性が悲鳴を上げ、後ろを振り向くと、今までの敵とは明らかに違う、鎧を纏った鬼『将赤鬼(オーガジェネラル)』が人の丈よりはるかに長い大剣を振り回しながらこちらへ近づいてくる。


 その大剣の威力は凄まじく、振った数だけ人が豆腐のように切り裂かれていた。


「首相、お逃げください!」


 SP達が、銃を構え一斉に発砲する。だが、将赤鬼は気にすることなく悠然と進み、SP達を切り裂いた。


 そのうちの一人がオークから奪った剣で袈裟斬りを放つ。彼は『剣豪』のスキルを持っており強い魔物とも戦える潜在能力があった。


 レベルさえ上がっていれば、であるが。


 渾身の袈裟斬りを大剣で軽くさばき、両断されてしまう。


「た、助けてくれーーー!」


 市民は皆パニックになり散り散りになってしまう。


「時間を稼げお前ら! 首相、お逃げください」


SP達は覚悟を決め、将赤鬼に突撃する。だが、誰一人敵うこと無くその命を散らせる。将赤鬼は弥彦の前まで現れ、口を開く。


「お前が大将か。部下は中々根性があったが、あんたは弱そうだな。まあ人は皆そういうものか」


 将赤鬼は人語を流暢に話し始める。驚きつつも、弥彦は叫ぶ。


「貴様ら、いったい何が目的だ!」


「すまないが、詳しいことは俺も知らねえんだ。ただ将を仕留めろとしか聞いてないからな。俺の仕事はあんたを殺すことだけだ」


 将赤鬼は剣を振り上げる。


「上はいったい誰だ? 人か? それとも化物か?」


「人なんかに従うわけないだろ、俺が」


 将赤鬼は鼻で笑う。


「……俺の首が目的なのだろう。なら他の奴は逃がしてもらえないだろうか?」


 弥彦はもう逃げられないことを悟り、他の者だけでもと交渉する。


「駄目です、総理! あなたが死んだら誰が今後日本をまとめるんですか!」


 後ろから妻夫木が叫ぶ。


「……別にいいぜ。俺の仕事はあんたを殺すことだけだ……それに漢気のある奴は嫌いじゃねえ」


 そう言って将赤鬼は笑った。


「忠正……生き残りを集めなんとか纏めるのだ。きっとまだ生きている有能な者も沢山いる。お前が皆を導くんだ!」


「じゃあな、大将。俺の名はレイズだ」


 そして将赤鬼の大剣が弥彦の体を切り裂いた。


「総理ーー!」


 妻夫木は叫びつつ、まだ生きている者を連れて逃亡する。弥彦の望みを叶えるために。



※この作品はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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