オーク焼き
英斗が市街地から少し離れた人の少なそうなところでゴブリン狩りをしていたところ同様に魔物を狩っている少女を見つけた。
制服を着ておりまだ高校生ごろであろうか。腰までありそうな絹のような黒髪を靡かせ、大きな瞳に鼻筋の通った美少女であった。目は吊り上がっており気の強そうな感じを伺わせる。
だが彼女はオークから奪ったのか槍を持っており、その槍でオークを貫き葬っていた。アスファルトにオークが崩れ落ちる。
「あら、あなたも魔物狩りかしら?」
謎の美少女は英斗に気づくと、動きを止め、こちらに目を向けた。
英斗はばれずに済ませたかったが、気づかれてしまったので、おとなしく挨拶をする。
「ああ、そうだ」
「こんな状況でこんなことしてるってことは貴方も気づいたのかしら?」
「何をだ?」
英斗はとぼける。
「あら、とぼけなくてもいいのに。スキルのレベル上げでしょう?」
「……そうだ」
「おそらく日本はもう駄目ね。こんな化物が日本中に湧いたのならもう自分を守れるのは自分しかいないわ」
「それは同感だね」
「そういえば、名乗ってなかったわね。高峰よ」
「俺は、月城という」
「警戒心が高いのね、月城さんは。さっきから一定の距離を保っている。心配しなくても何もしない人間を襲うつもりなんてないわよ」
英斗は現段階で高峰に勝てるビジョンが浮かばなかった。オークを簡単に屠るあの強さ。明らかにスキルの力であろう。
だが、なんのスキルか見当もつかない。純粋な身体能力上昇スキルなのか、槍用スキルなのか。
「すまないね、昨日何回も殺されかけたもんで」
「魔物も怖いけど、人間も怖いから仕方ないわ。よければ貴方のスキル教えてもらえないかしら? 他の人のスキル興味あるのよね?」
高峰はそう言うと、穏やかに微笑んだ。
「人に聞くときは、自分から言うのがマナーだよ、高峰さん」
そう言いながら、英斗はいつでも逃げられるよう逃走経路を探っていた。
「それもそうね、私の力は『槍術』よ。槍なんて持ってなかったけど、オークが持っていて助かったわ」
「槍術か。道理で鮮やかな槍さばきなわけだね。俺の力は『石生成』。石を生み出す力さ」
そう言って、英斗は手から10㎝程の石を生み出す。
これははったりであった。だが、初めてあった女に能力の全貌を明かすわけにはいかないが、全く別の能力を言っても嘘がばれてしまう。
「そう……それはユ、ユニークな能力ね」
高峰は明らかに同情した顔であった。確かに石を生み出すだけの力じゃ悲しくもなるかもしれない。嘘だが、少し傷ついた自分がいた。
「確かにそれじゃレベル上げしないとやばいわね」
そう言って高峰が笑った。
「ほっとけ。レベル上がればきっと大岩生み出せるんだよ」
「そうね。けどその能力じゃまだオークは倒せてないんじゃない?」
図星であった。
「まだゴブリンスレイヤーさ」
「今一匹殺したから一緒に食べない?」
「そりゃいい話だが、君にメリットがない。何を考えてるんだい?」
「何言ってるのよ、貴方が解体するのよ。女子高生に解体させる気?」
「なるほど、合点がいったよ」
「どうする?」
「引き受けよう」
そう言って、英斗はオークの死体に近づく。もちろん高峰への警戒は引き下げずである。
包丁でオークの肉を切るも、なかなか難しい。
「えー、お兄さん解体したことないでしょ?」
「あるわけないだろう」
「昔お爺ちゃんに教わったことあるから、私の指示通りやってみて」
「分かった」
英斗は高峰の指示に従い、血抜きを行なった後、数時間かけて解体する。
「血だらけになるわね、やっぱり」
血だらけになった英斗を見ながら呟く。
「素人だからな、本当にこれでいいんだろうか……」
「別にプロレベルの解体は求めてないわ。ハイ、これ火」
外に持ってこれる携帯コンロとフライパンである。
「用意いいね」
英斗はそこまでの準備をしていたことに驚く。
「だってこの世の生物じゃない魔物の肉よ、一度は食べてみたいじゃない」
「確かに。じゃあ焼くか」
外で携帯コンロを使いオーク肉をJKと調理、昨日までの自分じゃ信じられない状況だ、と英斗は思った。
「いい匂いね」
「できたぞ」
「塩コショウも持ってきたわ」
「流石!」
塩コショウを降り、オーク肉をいただく。
「うめえええ!」
英斗は思わず叫んでしまった。日本の豚肉よりよっぽどおいしかった。といっても、英斗の普段食べる肉は安い豚肉だからではあったが。
「本当おいしいわね。これからはこれが私たちの主食になるのかしら」
ぼそりといった高峰の一言に反論できなかった。だが、オーク肉をいつも食べられるのは彼女の実力あってこそだろう。
「ありがとう、高峰さん。おかげでいいものにありつけたよ」
「いいわよ、別に。一人じゃ食べきれないしね」
「一人って、まだ高校生でしょ? 親は心配してない?」
「……父は仕事で世界中を移動しているわ。母もそれについていっているしね」
英斗は地雷を踏んでしまった、と思った。こんな状況になった以上海外にもし居る場合決して簡単には会えないだろう。永遠の別れの可能性の方がはるかに高い。
「そんな暗い顔しないでよ。私はこの状況を割と楽しんでるわ。今は一般的には地獄といっていいでしょう? けど、退屈な日々に飽き飽きしていたのよ」
そう言って高峰は笑った。
「それは同感だな。まるで、ゲームの世界にきたような、子供の頃は怪物を倒すRPGの主人公に憧れたもんだ」
「漫画やゲームが好きな人ならみんなわくわくしてるはずよ。まあ、いいスキルなら……でしょうけど」
「確かに」
そう言って英斗も笑った。
しばらく話した後、高峰は優雅に腰を上げる。
「じゃあね、月城さん。またどこかで会いましょう。私のフルネームは高峰有希よ」
「ああ、こちらこそありがとう高峰さん。俺のフルネームは月城英斗だ」
そう言って、非常食の缶詰を一つ投げる。
「これは礼だ。オーク肉の礼にしてはしょぼいが、残りの礼はまた今度返すよ」
「あら、ありがとう。ありがたく受け取っておくわ」
そう言って高峰は去っていった。
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