帰還
階段を下ると、そこは再び洞窟であった。そして再び赤い石が埋め込まれた柱が立っていた。
その赤い石に触れると石から光が溢れ出す。前回同様掌に紋章のような物が刻まれ、消えると同時に柱からアナウンスが流れる。
『21階を記憶しました。ワープ機能を拡張します。ご利用先を選択してください』
その言葉と同時に空中に、1階、11階、21階という文字が浮かび上がる。
「よし!これで戻りたいときすぐ戻れるぞ! それにしてもこのダンジョン何階まであるんだ……」
「ワウッ!」
ナナと一緒に喜ぶ。
洞窟の出口は近いようですぐに光が見える。英斗達は出口へ向かう。
洞窟を抜けるとそこは草原であった。見渡す限り草原で、山や木々も遠くに見える。ものすごく広大で、壁が見当たらない。
「気持ちいいな~、ナナ!」
「ワウ!」
「けど強そうな奴も多い……再び修行だな」
全長20mを超える山のような魔物や、ケンタウロスのような魔物、空飛ぶ火の鳥など強者揃いのようだ。
英斗は再び鍛錬を積むこととなる。
21階に到達してから1か月が過ぎた。現在英斗達は24階でS級コカトリスと戦っていた。
だが、今までとの大きな違いは英斗が飛んでいることだろう。背中に翼が生えているのだ。英斗はレベル50を超えたところで背中から翼を生み出せるようになった。中々魔力を喰うので、普段から使用しているわけではないが。
透明な箱型のバリアを生み出し、コカトリスを閉じ込める。だが、コカトリスはバリアを一瞬で粉砕する。
「その一瞬の隙が欲しかったんだ。流星」
だが、その刹那の隙が命取りである。次の瞬間隕石がコカトリスに直撃する。轟音と共に、小さなクレーターが生まれる。コカトリスは即死のようだ。
「これで54か……」
体が熱くなりレベルアップを告げた。コカトリスをマジックバッグに収納していると脳内になにか声が聞こえる。
『え……えいと』
突然の念話に驚き周りを見渡す。
『え……えいと……れべるあっぷおめでとう』
英斗はとっさにナナを見る。
「ナナか?」
『うん』
ナナは頷く。
「い、いつの間に念話なんて覚えたんだ?」
英斗は驚きながらもなんとか会話を続ける。
『まえにりゔぃすにあってからずっとれんしゅうしてた』
『えいと、すき』
ナナの成長と、その言葉に英斗はもう泣きそうになる。
「うおおおお! なんて可愛いんだ! 俺も大好きだぞ、ナナァー!」
英斗はナナを抱きしめる。
『これで、もっと、えいととはなせるね』
「いっぱい話そうな! ナナ!」
英斗は自分の我が子が初めてパパと呼んでくれたかのような、感動を覚えていた。
「今日はもう家に帰ろう。お祝いだ!」
「ワウー(うん)」
英斗は木製のログハウスを生み出し、24階に住んでいた。家に戻り大量のごちそうをナナにふるまう。
『えいと、おいしい』
「好きなだけ食べな」
英斗はナナを撫でながら言う。ナナが食べ終わった後、
「そろそろ杉並に戻ろうと思うんだよ。今ならあの男ともまともに戦えるんじゃないかと思ってな……」
『えいとがいくとこに、わたしいくよ』
ナナは英斗のいる場所ならどこでも良いので二つ返事で了承する。
「ありがとな、ナナ。明日から戻ろう」
21階以降の装備で固めている英斗は昔よりはるかに高い戦闘力を有していた。
『ハイオーガの長剣 SR
ハイオーガを倒した強者が得られる長剣。自動修復機能あり』
『メディラアントの盾 E
蟻の王メディラアントを倒した英雄が得られる盾。魔法耐性(スキル含む)強化大』
『フェニクスの兜 E
火の鳥フェニクスを倒した英雄が得られる兜。危機察知強化大。炎耐性強化特大』
『グリフォンの鎧 E
グリフォンを倒した英雄が得られる鎧。あらゆる攻撃から身を守る。物理、魔法耐性(スキル含む)強化特大』
『コカトリスの手甲 E
コカトリスを倒した英雄が得られる手甲。魔法攻撃(スキル含む)強化特大 毒耐性強化大』
A級魔物、ハイオーガから得た剣。S級魔物のメディラアント、フェニクス、グリフォン、コカトリスから得た防具を使用している。他にも様々な物を入手したが、これらの使い勝手が良かったのである。
こうして、英斗は2か月振りに地上に戻ることとなる。
2日かけて21階のセーブポイントまで戻ってきた英斗達は、柱の赤い石に触れる。
『ご利用先を選択してください』
空中に表示された文字の中、1階に触れる。すると、英斗達は浮遊感を感じると同時に、目の前の景色が切り替わる。気づくと1階のセーブポイントに戻っていた。
「えっ、誰あれ?」
丁度ダンジョンに入ろうとしていた4人組が突如現れた英斗達に驚く。
「ナナ、逃げるぞ!」
英斗はナナに騎乗すると、一目散に出口に向けて逃げていった。
「なんだったんだ……。けどあの人たち凄く強そうじゃなかった?」
「分かる! あの狼だけで私達全滅しそうだったもんね」
「縁起でもないこと言うなよ……」
「けど、あんな人世田谷に居たっけ?」
4人組は謎の銀狼使い談議に花を咲かせた。
突如疾風の如き速さで出口から出てくる銀狼に見張りは驚きを隠せなかった。
「おい! いつ入って……おい! 聞け!」
だが、見張りはナナの速度に付いていけるわけもなく、ただ消えていく銀狼の後姿を眺めることしかできなかった。
「いったいなんだったんだ……、マスターに報告した方がいいのかな……やっぱ」
見張りはこれから起こるであろうしっ責を想像し溜息をついた。
「ははっ、久しぶりの地上だ! この風が心地良い!」
英斗は両手を広げ、久しぶりの地上に喜びを隠せなかった。
『おそときもちいいね』
ナナもご機嫌で自宅に向けて走り始める。途中多くの魔物を見たが、ナナの強さを本能的に感じたのか襲い掛かってくる魔物は居なかった。
ダンジョンを出て15分程で、杉並区の駅前に着いた。だが、今までと違うのは、いつもは賑わっていた駅前に人が全く居ないことだ。知らない間に魔物に杉並区は滅ぼされたのだろうか、と首をかしげる。
誰か情報を持っていないか、と考え街中を駆けていると、何処かで見た男達を見つける。我羅照羅のメンバーである。
「駅前に人が居ない。いったい俺が居ない間に何があったのか教えてくれないか?」
とできるだけフレンドリーに英斗が尋ねる。
「……帰られたんですね。この状況についてなら説明できます。詳しい事は総長から聞いていただけませんか?」
まるで探していたかのような台詞である。だが、前回よりずいぶん礼儀正しい。
「正直危険な気がするんだよね。2か月前まで戦ってたわけだし」
「総長はまったく気にしていませんよ。何かありましたら私が命をかけて償います」
いや、お前の命なんていらねえよ、という言葉が喉から出かかったがなんとか我慢する。
「分かった、そちらへ向かおう」
人の居ない謎を知るため、我羅照羅の弦一に会うことを決めた。