君はどこから来たの?
『同じ手を食うか!』
リヴィスは絡みつく木々を一瞬で破壊し、イグニールSの攻撃にも応戦する。だが、今回は絡みつく樹木以外にも多数の樹木が生え、リヴィスの付近が小さな林となっていた。その樹木はリヴィスより高くそびえ立ち、しかも葉により上空の視界も遮られていた。
英斗とナナは木々に紛れ、姿を消す。
『これは遮蔽物か……しかもこうも生えられると飛びにくい』
普段なら一本一本斬り落とすのは簡単であるが、イグニールSと交戦中であればそうはいかない。リヴィスはイグニールSと戦いながら、木々に紛れる英斗達も気にしなければいけない。
すると英斗を乗せたナナが木々に紛れながら、氷槍を放つ。氷槍をはじきつつ、その牙でイグニールSの盾を砕いた。
ナナは再び、冷気を放ちリヴィスの邪魔に専念する。盾を失ったイグニールSはそれでも懸命に剣を振るう。
リヴィスは英斗の邪魔がないことに違和感を覚えつつも、イグニールSを仕留めるため口を開く。
『龍の息吹』
眩いほどの魔力が込められた光線はイグニールSの両腕を奪い、かろうじて残った胴体も地面に倒れ込んだ。
リヴィスは英斗の奥の手のイグニールSを倒したことで勝利を確信していた。残った英斗達を仕留めようと辺りを見渡す。
次の瞬間、リヴィスの体に悪寒が走る。上空を見ると、巨大な隕石が草を焼きながら高速で落下してきていた。
どういうことだ!?
リヴィスはナナから、その上に乗っていた英斗からも目を離していなかった。だが、木々に遮られて注意深く見ていなかったリヴィスはナナの上に乗っていたのが精巧に作られた英斗を模した自動人形であることに気付かなかったのだ。
本物の英斗は木々を登り、頂上で隕石を生み出すことに専念していたのである。
リヴィスは再度龍の息吹を放とうとするも、連発できるような技ではない。
「流星」
その巨大な隕石は流星のようにリヴィスに落下した。
流星はレベル45になりようやく生み出せるようになった英斗の新必殺技である。その威力は絶大で落下地点の直径20mに小さなクレーターが出来上がるほどだった。
リヴィスの龍鱗も粉々に砕け散っており、その威力の凄まじさを物語っている。息も絶え絶えで、もう長くはないだろうことが窺えた。
『やるではないか……月城よ』
英斗が樹木から降りたつと、リヴィスから少し弱々しい念話が届く。
「雪辱は果たさせてもらったよ。俺はあなたのおかげでより強くなれた、礼を言う」
英斗は自らを引き上げてくれたリヴィスに礼を言う。
『何……構わん。久しぶりの戦闘は楽しかった。人族との戦いはどこの世界でも心躍る』
「やはりお前たちは別の世界から来たのか!?」
どこの世界でもという言葉に引っかかりを覚えた英斗が尋ねる。
『なんだ、我らがどこから来たのか気になるのか?』
「当り前だろ! この世界はほんの少し前までは魔物なんて一匹も居ない平和な世界だったんだ!」
『本当にそうか? 人族は常に争う生き物だと思っていたがな。心配せずともお前が我らと戦い続ければいつか必ず真実にたどり着くだろう。だが、それは茨の道かも知れぬ。戦いが嫌いなら大人しくしておけ、少しは寿命が延びるだろう』
「真実を知りたいという好奇心は誰にも抑えきれないものなんだよ」
「人族とはそういうものだった……ならば恐れずに歩め。新たな 龍殺しよ……」
そう言ってリヴィスは息を引き取った。
「おやすみリヴィス」
「ワウ」
英斗はリヴィスを倒した達成感を覚えつつも、ひとかけらの寂しさを感じていた。
リヴィスが死んだことで、英斗の体が熱くなりレベルアップを伝える。だが今回は3回連続で体が熱くなり力が漲ってくる。
「流石S級……3レベルもあがるとは……」
そして部屋の中心には黄金の宝箱が置かれている。英斗はわくわくしながら宝箱を開く。中には、1つの赤い宝石の付いた首飾りと、1つの肩掛け鞄が入っていた。
『リヴィスの首飾り E
誇り高き龍リヴィスを討伐したものに与えられる首飾り。1日に一度だけ限界魔力を超えたスキル(魔法を含む)を使用できる』
『マジックバッグ(大) E
見た目以上に多くの物が入る魔法の鞄。中は時間経過が殆どない。生き物は入らない』
「おお、2つとも凄そうだな! この鞄も助かる、今までで一番ダンジョン感あるアイテムだ」
英斗はリヴィスの死体を入れることができるか確かめる。
「体、このリュックより明らかに大きいけどいけるのかね……うお!入った! 凄え!」
英斗は体の一部を入れた瞬間、スッと消えてしまったことに驚く。
「内容量もドラゴン丸々入るレベルとは……」
手を入れて念じるだけで、再び出すことも可能のようだ。
「ワウーー!」
ナナもマジックバッグの効力に驚き、ぐるぐると回っている。
「更に潜ろうか。目指すは遥か高み……だ」
笑いながら、英斗は逆方向の扉を開けた。米谷を超えることももちろん目標であるが、なによりゲーム世代の英斗はレベルアップ、目に見えて成長することが楽しかった。
更に深部へ。どこまでも、どこまでも。