格上
煙が晴れるとその男はぴんぴんとしており、こちらを見て笑っている。
「ふふ、少しだけ効いたよ。榴弾をこの身で受けたのは初めてだからねぇ」
「化物め……!」
英斗は両手に小さな鉄球を生み出すと、鉄球から高速で木が成長するように鉄の棘が生まれ枝分かれしつつ男に襲い掛かる。
男は手で全ての鉄の棘を弾きつつ前進してくる。50を超える棘を全て弾いたのである。
「今のは悪手だったねぇ」
男は拳を振りかぶる。英斗はイグニスの盾を展開するも男の一撃は凄まじく盾を粉砕し左腕ごと吹き飛ばした。
「グウゥ……」
英斗は左腕を押さえる。完全に骨を砕かれていた。
「ガウウウウ!」
ナナはすぐさま英斗を庇うように2人の間に入り込むと、全力の氷魔法を放つ。
男ごと前方10m程全てを凍らせた。通路ごと全てを凍らせたのだ。
ナナが英斗の様子を見ようと後ろを振り向く。勝負が着いたかのように一瞬思われたが、氷に一筋のヒビが入る。
「ナナ! 危ない!」
次の瞬間氷が割れ、中から男が現れる。男は少し苛ついたのかナナに一足飛びで距離を詰め回し蹴りを放つ。
「ギャウウウ!」
ナナはピンボールのように何メートルも飛び、地面をゴロゴロと転がりピクリとも動かない。明らかに重傷であった。
「少し効いたよ。良いペット飼ってるねえ。だが少しオイタがすぎる」
男は笑わずにそう言った。
「てめえ……殺してやる……」
英斗はブチ切れ『巨大人型兵器』を生み出そうと構える。
だが、ナナの今後が頭をよぎり英斗は平静さを取り戻す。
俺がここでこいつと命の殺り合いをして動けなくなったら誰がナナを助けるんだ……、と英斗は考えた。
英斗は奥歯を噛みしめながら、煙と、同時に大穴を塞ぐほどの通常より倍は厚い鉄壁を生み出す。間髪容れず英斗は更に2枚鉄壁を生み出した。
「煙と壁か……」
男は壁に一撃を加える。厚さを倍にしたおかげか、なんとか一撃は持つことができたようである。
英斗はナナを担ぎ上げるとそのまま全速力で走り出す。
「うーん、勝てないと思って逃げたか……まあ利口だねえ。まあ別に彼はターゲットでもないし逃がしてもいいんだけど、この程度の壁壊せないと思われるのも癪だねぇ」
そう言うと、男の筋肉は更に膨張し、真っ黒になる。頭には二本の角が生え、もう人間とは程遠い。
男は魔力を右手に込め拳を鉄壁に打ち込む。
次の瞬間凄まじい轟音と共に、黒い魔力がはじけ三重にした鉄壁が全て消し飛ぶ。
「いやー、逃げられちゃったか……探して殺してもいいんだけど、もうここの用は済んだし帰ろうかな」
男は英斗の追撃を諦め踵を返した。
「それにしてもうちのボスは中々面倒なことを頼んでくるよ……。それにあの子があれに勝てるかどうか……楽しみだ」
男がバッグから取り出したのはS級魔物『コカトリス』の頭部だった。ニワトリの頭部に竜の翼、蛇の尾を持つ怪鳥である。
彼はコカトリスを狩るために24階まで潜っていたのだ。
彼の名は『米谷賢』。23区でも特に魔物や人が強い激戦区渋谷最強の男である。
彼は文明崩壊前渋谷で裏の用心棒を生業としていた。現在は渋谷最強のクラン『鬼神会』のNo.2である。
彼は襲い掛かる魔物を全て皆殺しにしてダンジョンを去っていった。