礼儀
赤大鬼が高速で英斗に迫りかかる。英斗が地面から鉄壁を生み出し一撃を防ぐ。鉄壁は轟音を出しつつも壊れることなくその一撃を受けきる。
すると赤大鬼から魔力が溢れる。身体強化魔法である。その後振りかぶり放たれた一撃は鉄壁を砕いた。
「まじか……」
英斗は鉄球から鉄の棘を生み出し、枝分かれした棘で襲い掛かる。ハイオーガは貫かれつつも致命傷となる部分は魔力強化した手で守りながら迫りくる。
「ベンツかお前は……」
英斗は一人で突っ込みを入れる。
棘を生み出したことで回避が間に合わなそうな英斗は、魔力を込めイグニスの盾を巨大化させる。
その一撃は凄まじく盾だけで防ぎきることはできず、英斗はそのまま5m以上吹き飛び、近くの木に叩きつけられる。
「カハッ!」
長の活躍にオーガ達から歓声が上がる。
英斗はすぐさま敵に視線を移すと、既にこちらに飛びかかってきている。
英斗は横に長い鉄壁を生み出すと、右側に走り出す。その拳で鉄壁が砕ける頃には距離を取ることに成功した。
英斗は地面から鉄棘を生み出し襲うも、跳んで回避される。英斗は跳んだ赤大鬼目掛けて炎槍を生み出し放つも、赤大鬼は強化した手でその炎槍を弾き落とす。
そのまま襲ってくる回し蹴りを鉄壁で受け止め、英斗は長剣で腹部を切り裂く。
浅い……。英斗は手ごたえの無さを感じ、すぐさまその場から離れる。
先ほどの一撃で左腕に痛みを感じる英斗は、長期戦は厳しいと感じ覚悟を決める。
襲い掛かってくる一撃を再び鉄壁で防ぐと同時に英斗そっくりの高精度の自動人形を生み出す。
だが赤大鬼もその対応に慣れたのか、左腕で鉄壁を破壊し、次の瞬間右腕で手刀を放つ。
その手刀は見事に刺さり、首を砕く。
英斗ではなく、自動人形であるが。
一瞬英斗を仕留めたと思うも、すぐに異変に気付く。
「油断したな」
自動人形の壊れた首から植物の太い蔦が生み出され赤大鬼に巻き付き始める。すぐさま蔦を引きちぎろうとするが成長が早く手間どってしまう。
英斗は高さ4m程の巨大な鉄製ゴーレムを生み出す。強大な2つの腕を持ち、その赤い一つ目は赤大鬼を見つめている。だがそのゴーレムは下半身は無く胴体までしか創造されていない。魔力の節約、そして素早い創造のためである。
ゴーレムは振りかぶり渾身の一撃を放つ。だが、赤大鬼も蔦に絡まれながらも右ストレートで応戦した。
両者の一撃が交差し轟音が響く。赤大鬼の腕から鈍い音が聞こえる。折れたのだ。だがゴーレムの腕も無事では済まず、ヒビが入った。
だが、ゴーレムは痛みを感じない。もう一つの腕で渾身の一撃を放つ。赤大鬼も残った腕で応戦する。
しかし、腕が折れたせいか一瞬遅れた赤大鬼の拳は間に合わず、ゴーレムの一撃を頭部に受け吹き飛ばされた。
そのまま木に叩きつけられると、赤大鬼は先ほどの一撃が致命傷であったようで、息絶えた。
すると英斗の体が熱くなる。レベルアップである。
「これで36か……」
と英斗が呟く。
一方オーガの群れは長が負けてしまったことで動揺してしまっている。まだ10体以上いるので戦闘したくない英斗は、壊れかけのゴーレムを動かし威圧する。
それを見たナナも冷気を纏い臨戦態勢であることをオーガ達に伝える。勝てないことを悟ったオーガ達は瞬く間に散り散りに逃亡した。
だが1体だけ逃げずに構えたオーガが居た。奴も勝てないのは承知の上で亡くなった長のために拳を構えたのである。
ナナが仕留めようと動くも、英斗が手で止める。
「いや……奴は俺が殺る。それが礼儀だ」
英斗も魔力を相当消費しているが、決死の覚悟を決めた男のため剣を構える。
緊張した空気が周りを支配する中、英斗が先に動く。オーガもその動きを見て走り出す。
二人が交差しオーガの拳が英斗の脇腹をかする。英斗は痛みに顔を歪ませつつも、その長剣でオーガの首を切り裂いた。
オーガは口から血を噴き出しそのまま地面に倒れ込む。
「長のためとは……男だな」
英斗は死体を見ながら感傷に浸る。
そして死体付近には銀の宝箱がドロップしていた。
その宝箱を開けると中には赤い兜が入っている。兜には赤大鬼の立派な一本角が生えている。
『赤大鬼の兜 SR
ハイオーガを仕留めた強者の証。身体能力強化(中)』
英斗が兜を身に着ける。鎧が赤いこともあり、赤武者のようになっている。
「肉弾戦そこまで得意じゃないんだが、完全に剣士の装備だよな」
と笑いながらナナを撫でる。
オーガの群れが消えたことで、20階への階段の障害は無くなった。英斗達は更に深部である20階へ踏み入れる。