エピローグ
グロワールを見つめていた織也が口を開く。
「英斗は、これが目的で死王と戦っていたのか」
「ああ。目的は達成できたし、近いうちにここを発つよ。織也はどうするんだ?」
「俺は……。ここも落ち着いたし、花畑を、作るよ。幸い人がたくさん死んだせいで、土地も有り余っている。ようやくゆっくりとできそうだ。だが、種を探すのが、大変そうだ」
織也の言葉を聞き、英斗が手に大量の種を生み出す。
「俺が生み出した花の種子だ。良かったら使ってくれ」
それを聞いて、織也の顔が輝きだす。
「良いのか! そうか英斗の能力なら種子も作れるのか。ならこの花の種子も作れるか?」
織也は今までで一番の笑顔で、英斗に迫る。英斗は結局自分の知っている花の種子を様々な種類、合計一万粒も生み出した。
織也は心底嬉しそうな顔で何度も英斗にお礼を言う。正直、レガシーを倒した時より嬉しそうに見える。
「ありがとう、英斗! 必ずこの種子で花畑を作るから、いつか見に来てくれ!」
「ああ、楽しみにしてるよ」
英斗は笑顔で応えた。
その後は死王を倒した英雄である英斗達の元に様々な者が入れ代わり立ち代わり礼を言いにやってきた。
「本当に死王を倒すとは。英斗さんは英雄ばい! これでもうアンデッドの群れに怯えて過ごさなくて良か」
シゲ爺は涙を流しながら、英斗の両手を握りお礼を言う。最後の方は拝み倒していて、英斗の方が気後れしたほどだ。
「わしらが、英斗さんの偉業をしっかり広めておくからね。東京ダンジョンタワーと踏破し、死王を倒した英雄として」
ヤスも同様に英斗を拝みながら、念仏を唱えている。死んだみたいだから正直やめて欲しい、と英斗は思った。
皆も熱狂は夜中まで続き、英斗達は祭りを抜け、ある廃マンションの一室に身を寄せる。
英斗は机に座り、ゆっくりと温茶を啜る。
「疲れたな」
「仕方ないわ。九州の人からすれば、魔王を倒してくれたようなもんだからね」
「そう言われると確かに仕方ないか」
英斗がお茶を飲んでいると、少しの間、沈黙が流れた。
「有希はそういえば、これからどうするんだ? 目的は達した訳だし……」
目的である母とは再会ができたのだ。結局死んでいたわけではあるが。
「そうね……もう目的は達したし帰ってもいいわね」
「そうか……」
英斗はそれを聞き、何も言えなかった。何か心に残るもやもやがあったが、口には出せなかった。魔法具の収集はこれからも命がけだろう。そんな過酷な旅に来てくれ、とは言えない。
だが、そんな英斗の反応を見て、有希はほんのわずかに口を膨らませる。
「あなた、私と飲みたいんじゃなかったの?」
有希のその言葉に、英斗は一瞬驚くも、素直に口を開く。
「ああ。飲みたいよ、勿論」
「じゃあ、言うべきことがあるんじゃない?」
これは有希からの、遠回しな、遠回しな言葉であった。英斗は、ここは言葉選びを間違ってはいけないと感じた。その言葉の意味を考え、顔を上げる。
「これからも一緒に居てくれないか? 危険かもしれないが、俺が守るから」
英斗は、はっきりと有希の目を見て告げる。それを聞いた有希はにっこりとほほ笑んだ。
「勿論。これからもよろしくね、英斗」
その綺麗で可愛らしい笑顔に英斗はすっかり目を奪われた。顔が赤く染まる。
「あら、私の可愛らしい笑顔に照れたの?」
「酒を飲みすぎたんだよ」
英斗が目を背けると、有希はそれを見て幸せそうに笑う。こうして有希との旅はまだ続く。幸せで、穏やかな夜だった。
ナナは照れて赤くなる飼い主を、ジト目で見つめていた。
これにて9章は完結になります! ここまで読んで下さった方、全てに感謝を!
途中で長期休載を挟んだのは申し訳ありません。無事、9章も完結できて良かったです。少し関係も発展したような、してないような。
奥手なんですよ、きっと。





