演説
「皆もご存じの、九州最強の男『粉砕者』は生きている。彼は死王との敗北後、大阪ダンジョンタワーでひたすら爪を研いでいた。それは全て、死王を仕留めるため! SSランクという未曽有の怪物をソロで倒し、ここに戻ってきた! そしてそれを支えるのは、東京ダンジョンタワーを踏破したパーティ『挑戦者』です! それでは、最強の男『粉砕者』のお言葉をお聞きください」
英斗は、巨大な拡声器を織也に渡す。織也は怯えたような顔で英斗を睨む。
「冗談……だろ?」
「織也が皆を支えないと、もう九州は持たない。これは俺でも他の誰もできない。織也、お前しかできないんだ。今まで頑張ってきたのは知ってる。何か皆に言ってやれ」
スキル見せてからな、と小さく付け加える。
市民は皆、静かに屋上を眺めている。その顔にはどこか英雄を待っているような、そんな顔をしていた。
織也は心底嫌そうに顔を顰め、地面を見つめ震えた後、手を地面に翳す。
「重力空間・五倍」
その手の先のアンデッド達が全て地面に沈み、そのまま大きなクレーターが出来上がる。潰されたアンデッドの血によって、その穴は真っ赤に染まる。
「あの技は……本物の『粉砕者』だ! 俺見たことあるぜ!」
「俺もだ!」
織也の技を見て、市民達が歓声を上げる。
織也は、震えるような手で拡声器を持ち、口を開く。
「皆、俺は……『粉砕者』、と呼ばれていた男だ。あまり、口は上手くない。から、皆を鼓舞できるかは分からない。俺は皆を救うために、戦っていた訳じゃないんだ。ただ、好きなものを、花、を守るために戦ってきた。そのために、努力はしてきたつもりだ。だから……」
「ただ、俺を信じてくれ」
決して大きな声ではない。拡声器を使ったにしては小さかっただろう。だが、その声は不思議と通り、市民の心に届いた。
一瞬の沈黙の後、大きな歓声が戦場に響き渡る。
「俺の仲間、英斗は死王を殺すことが唯一可能な男だ。だから、今こそ立ち上がってくれ!」
織也はそう言った後、拡声器を英斗に返す。
市民は皆、目に光を取り戻し、近くのアンデッドに剣を振るう。多くの者は織也を信じ戦っている。だが、他の者を信じて戦っている者も居た。
「シゲ爺、あの人……!」
「分かっとるばい! あの人は本当に死王を倒すために戦っとるんじゃ! あの人が命張っとるのに、儂らが逃げる訳にはいかん!」
あの村に居た者も福岡市で戦っていた。シゲ爺は英斗の姿を見て、ここで命をかけようと決めた。シゲは猟銃を構えると、襲い掛かるアンデッドの頭を消し飛ばす。
「大丈夫じゃあ! わしらには英雄がついとるばい!」
シゲは皆に激励を飛ばす。皆は頷くと、アンデッドに向かっていく。村人の姿を見て、他の者も、逃げることを辞めアンデッドと戦うことを決めた。人間の戦意は少しずつ周りに伝播していった。
「いいね。ようやくスタートラインだ。俺達は本丸を狙う」
「やるわね、英斗。これならしばらくは持つはず。お母さん、どうしたの?」
「何か……違和感がある。気のせいだと思うんだがな」
「そうなの? なら一応気を付けていきましょう」
千鶴の様子が少し、いつもと違うことが気にかかったが、そのまま英斗達は死王の元へ向かう。
皆さん、お久しぶりです。体調が崩れて長らく更新できませんでした。すみません。体調が戻りましたので、本日から更新を再開いたします。
また別作品の話なんですが、拙作の
『不敗の雑魚将軍~ハズレスキルだと実家を追放されましたが、「神解」スキルを使って、帝国で成り上がります。気づけば帝国最強の大将軍として語られてました』
https://ncode.syosetu.com/n1173ho/
が、書籍化&コミカライズ決定いたしました。
ここまでこれたのも、文明を読んで、応援して下さった方のお陰です。本当にありがとうございます!





