黒牙織也という男
黒牙織也は昔から、人とコミュニケーションを取ることが苦手だった。
「織也君って、何言っているか全然分からない」
小学生の頃、クラスの女子に笑われたことを織也は今でも覚えている。そんなことを繰り返していくうちに、どんどん話すことが嫌いになっていった。話さない方が楽だと、人と関わりを断つようになったのは中学生の頃である。
人とも関わらず、家に一目散に帰る彼の唯一の楽しみは家の花壇である。彼は、綺麗で話さなくても良い花が大好きだった。
母の代わりに毎日世話をして、大切に育てていた。親は彼のその優しさを愛していたが、同時に学校での彼を心配していた。
彼は結局高校を卒業した後、小さな町の花畑の管理人になった。彼は給料は低くとも、毎日花と触れ合えるその仕事を心から愛していた。
ただ花と触れ合えるだけで彼の心は満たされていた。
だが、その充実した日々は長くは続かなかった。文明が崩壊したあの大地震である。織也はすぐさまその変化に対応できなかった。
オークにより踏み荒らされる花畑を見て、織也は激昂し襲い掛かるも半殺しにされる。体を癒し、愛する花畑に戻った織也を迎えたのは、枯れ朽ちた元花畑の荒地であった。
彼は地面に膝をつき激昂し、必ずあの美しい一面の花畑を取り戻して見せると心に誓う。その日から彼は自分のスキル『重力』の訓練を積む。彼は相変わらず他の者とは関わることは無かったが、いつしか彼の実力は九州一と言われるようになっていた。
その実力を持って花畑を取り戻そうとした矢先、死王が九州に現れる。彼は必死で戦うも力及ばず、更なる力を求めてダンジョンタワーへ向かった。
人と関わることも無く、ただ上へ。そして彼はいつしかダンジョンボスすら討伐した。だが、その力をもってしても死王の命には届かない。
だが、彼は決して諦めない。いつか必ず来る機会のためその牙を研ぎ続けていた。
◇◇
英斗達が城でエルド達と戦ってから、既に一日以上が経過していた。エルドを討った後も、残ったアンデッドが死に物狂いで英斗達の足止めを始めたのだ。
既に英斗達が仕留めた魔物は一万を優に超えている。必死に死王の後を追うも、おそらく英斗の足止めを任されたであろう魔物達が定期的に襲ってくるため、全速を維持できなかった。
「邪魔だァ!」
英斗は地面から砂でできた巨大な腕を生み出し、アンデッド達を握りつぶす。
「上からスカルワイバーンよ!」
しかも足止めは雑魚ばかりではない。英斗達の足止めをできる程度の魔物を配置しているのだ。
「どうやら、敵はよほど俺に会いたくないらしいな」
英斗はアンデッド化したオークを、地面に沈めながら呟いた。
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