アンデッドが何を
時間はあっという間に過ぎ、決行前日になる。月が顔を出す時間であるが、皆少し落ち着きがない。どこか不安定な計画だからかもしれない。
英斗は、千鶴とワインを飲みながら明日の計画について話していた。織也は酒は飲めないと丁重に辞退した後、既に布団に入っている。
「私も、そろそろ寝ようかね。夜更かしは肌に悪いからな」
千鶴は笑いながら、寝室に向かった。英斗は自分の飲んでいるワインを見た後、有希に言う。
「もうすぐ誕生日だな」
「まだ一ヶ月以上あるじゃない」
有希が笑う。
「そうだけど、冬が終われば、もうすぐだろう?」
「なに、そんなに一緒に飲みたいの? 今、母さんと飲んでたじゃない」
「飲みたいよ。楽しみにしてる」
英斗の素直な言葉に、有希が僅かに動揺する。
「ず、随分素直ね……」
「だから、死ぬなよ。なんなら――」
「私も勿論明日参加するわよ」
有希に食い気味に言われる。英斗は、母が見つかったのだから、無理して死王との戦いに来ることはないと考えていた。
だが、その考えは既に読まれていたようだ。
「お母さんがやる気なのに、置いてけないでしょ? それに……ここまできて貴方を見捨てて帰るつもりもないわ」
有希は僅かに顔を紅潮させながら言う。
「そうか……。なに、神力もある。奴の首を獲って、終わりだ」
「任せたわ」
英斗もグラスを置くと席を立つ。あまり飲むと明日に響くためだ。英斗達はそのまま床に就いた。
翌日、英斗達が軽食を食べ、城を監視していると、遂に城内から動きがあった。城内から大量のアンデッドの兵士や魔物が出征する。数は六万を超えているように見え、事前に知っていたと言えど、その数に息をのむ。
その先頭に立つのは先日相手をしたがしゃどくろである。がしゃどくろは兵士達の方へ体を向ける。
「それでは、ただいまより福岡侵攻を開始する! 必ずや、レガシー様のために福岡を討ち滅ぼす! それまでは決して帰ることはない! それでは、全軍、前進!」
「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」」」
まさに地面を揺らす絶叫であった。骸骨兵士や、骸骨騎士などのアンデッド兵による一糸乱れぬ行進が始まった。
「福岡は大丈夫かしら」
「一応伝えてはあるんだが……」
あの数に襲われたら、福岡市に人数が居てもパニックになる可能性があった。だが、福岡は人の数も多い。六万という数でも十分に戦えるはずだ。
「六郎も、城に戻ってくれた。俺達も地下通路に向かおう」
六郎は十時に、扉を開けると言っていた。現在は九時。そろそろ向かっても良い時間である。
英斗達は地下通路に向かう。
地下通路に入り、懐中電灯を頼りに先に進む。
「六郎とやらを……本当に、信じても良いのか?」
織也が英斗に尋ねる。
「六郎を信じろ。あいつは、きっと開けてくれるはずだ」
「なら、何も言わんが……これで罠だったら、全滅の可能性がある、ぞ」
「知ってるさ」
英斗は時計を見る。既に時刻は九時五十分を回っている。ただ、六郎の開扉を待っていた。
その頃、六郎は既に城内に戻っていた。六郎はアンデッドパラディンであるディーンに跪いている。
「六郎よ、手筈はどうだ?」
ディーンが六郎に尋ねる。
「はい。手筈通り、地下通路に案内しております」
六郎は跪いたまま、気持ちのこもっていない声色で返す。六郎の顔からはなんの表情を感じられない。
「この俺が立てた作戦とはいえ、ここまでうまくいくとは。がしゃが言っていたが、奴等の一人は神力持ちらしいな。その厄介者さえ殺せれば、今回の侵攻は固い。既に用意は万端よ。お前も休むがいい。奴等の死体が見たければ一緒に居てもよいがな」
「ありがとうございます。少し疲れたので、休ませていただければ」
「アンデッドがなにを言うか。馬鹿な奴等よ。お前のような魔物を信じるから……滅ぼされるのだ! ハハハハハハ!」
ディーンが高笑いをしている中、六郎は静かにその場から去った。ただ、ディーンの笑い声だけが、城内にこだましていた。





