神の一手
「これか」
自動人形が見つけたのは、地面から僅かに見える鉄の扉である。巧妙に偽装はされているが、最近掘り起こされたのか、少し土の色が異なっていた。
土をどかし埃を払うと、そこには鉄の扉があった。
「明らかに怪しいな」
千鶴は扉の取っ手を持つと、力任せに引っ張り上げる。ギイイという鈍い音と共に、扉が開く。
埃が周囲に舞う。
「ごほっ。あまり使われてないようだな。皆を集めたら、中に行ってみようか」
英斗は鳥型自動人形を使い、他の者を集める。しばらくして、全員が集合する。
「六郎、これか?」
「多分。俺も使ったこと無いから分からんが」
事前にどういう場所か確認した方がいいということで、皆で中に入る。階段を降りると、幅五メートルほどの石造りの通路が広がっている。魔物がいるのかと思ったが、何も居ない。
「何も居ないな」
「死王用の通路だからな」
英斗達は、土埃の舞う通路を、懐中電灯を片手に進む。十分ほど歩くと行き止まりに辿り着き、上に上る階段があった。階段の先は分厚い鉄で覆われており、とても力尽くで開けられそうにない。
「やはり、侵入者対策はしてあるか」
「これどうやって開けるのかしら?」
英斗達の疑問を聞いて、六郎が口を開く。
「おそらく、この鋼鉄製の扉を開けるのは城内のしかけだ」
「それじゃあ、侵入は不可能ということか」
英斗達の顔が曇る。城内に普通に入れるのなら、こんな変な場所から入る必要がない。
「俺が中から開ける。当日俺が戻って開ければ、なんとかなるはずだ。俺を信じてくれるのなら」
六郎は真剣な声で言う。それを聞いて、皆は顔を合わせる。これが罠であった場合、いっきに窮地になる可能性が高い。
皆の沈黙を破ったのは、英斗だ。
「分かった、六郎。お前を信じよう。俺達を中に入れてくれ」
「任せろ」
六郎はその胸骨を、自らの手で叩く。こうして、通路からの侵入作戦が決まる。
それからは特にすることもないので、計画開始時まで、のんびりと過ごしていた。英斗と六郎は暇なので、将棋を指していた。
「五四、角」
六郎が盤上に角を打つ。それを見て、英斗はううむと軽く唸り動きが止まる。
「うーーん、これは良い手だな。良い手だ。待ったはありか?」
「なしに決まってるじゃねえか」
六郎は呆れるような声で応える。
「だよなあ」
英斗はうんうん、唸りながら、最後には桂馬でその角を取った。その桂馬が元居た箇所に香車が打たれる。
それを見た英斗の顔色が変わる。数分悩んだそぶりを見せた後、英斗は頭を下げる。
「ま、負けました……」
悔しそうな声である。
「ははは、俺はこれでも生前は将棋が得意だったんだぜぇ?」
六郎はきっと顔に肉がついていたら、英斗が苛つくほどのどや顔を決めていただろう。
「お前、アンデッド界なら八冠になれるよ」
「アンデッド界って狭すぎるだろう。俺以外に打てる奴みたことねえもん」
二人はのんきなものであった。見ていたナナが寝てしまう程だ。
「人襲っているより、将棋淡々と打つアンデッドの方が怖い気がするな……」
英斗も苦笑いである。
「なんだ、将棋をしているのか。私も混ぜてくれよ」
そんな二人を見て、千鶴が声をかける。
「いいですよ。六郎が強いんだ、こんななりで」
「こんななりって、なんだよ」
「私も強いぞ、是非打とうじゃないか」
千鶴対、六郎の将棋はとてもレベルが高い一戦であった。英斗は、どちらも自分より遥か上をいっていることだけは理解できた。
二人の実力は拮抗しており、既に一時間を優に経過している。盤上は少し、千鶴が有利なように感じられる。
だが、骸骨棋士がその時動いた。千鶴の囲いの中に、金を打つ。それを見た千鶴が、唸る。
「良い……手だ」
千鶴は腕を組み、思考の海に沈んでいく。この一手で一気に六郎へと流れが傾いたのだ。
その後、千鶴は懸命に戦ったものの最後は六郎の勝利で幕を下ろした。
「いやー、本当に強いな。私は初段なんだがなあ」
千鶴が恥ずかしそうに頭を掻く。
「俺、二段なんで仕方ないですよ」
六郎が自慢げに言う。どうやらただ打ち方を知っているだけの英斗じゃ勝負にもならないらしい。





