黒牙織也
声をかけられた瞬間、英斗の警戒心は頂点を越えた。決して油断はしていなかったのだ。
(いったいどこから……? 誰だ? 死王? それとも別の敵?)
ゆっくり考える時間は無い。英斗達は瞬時に武器を構え迎撃態勢を取る。
「誰だ!」
ここまで皆に気付かれずに近づける時点で実力者であることは疑う余地はない。
「……戦う気……ない」
声からして男であることが分かる。その男は、不明瞭な小さな声で敵意が無いことを告げる。
「ならなぜ近づいた? なぜ顔を隠している!」
英斗の言葉を聞き、男はしばらく沈黙した後、フードを取り去る。フードの中は、髪で顔を隠した二十代半ばほどの男であった。
顔は整っており、長い長髪からヴィジュアル系にも見えるが、目元の隈と、目を合わせない様子からどこか陰気さが感じられる。
「フードは……脱いだ。話、聞いて欲しい」
英斗は態度から、どうやら敵意はないと判断する。
「分かった。話を聞こう」
「俺は黒牙、織也だ。仲間に入れて、くれ」
と簡潔すぎる自己紹介を行う。
「少し簡潔すぎない? どうして仲間に入りたいの?」
有希が尋ねると、織也は目を逸らし沈黙する。
「なんで、無視するのよ」
有希が少し不機嫌そうに言う。
「……」
織也が小さく何か言っているが、よく聞こえない。
「すまん、もう少し大きな声で言ってくれ」
英斗が近づきながら頼む。すると、織也が英斗の耳元へ呟く。
「女性、苦手」
その言葉を聞いて、英斗は理解する。彼は、コミュニケーションが苦手なのだと。
「有希、彼は女性が苦手らしい」
それを聞いて、有希は呆れた顔をする。
「……英斗に任せるわ」
「織也君。ゆっくりでいいから、なぜ仲間になりたいのか、理由も教えてくれないか?」
織也は頷くと、小さな声で話し始める。
「俺も、貴方達と同じで、死王を狙っていた……。失礼だが、監視させてもらっていた。貴方の攻撃が、がしゃどくろに、効いているのを見て、確信した。貴方なら、死王も殺せると。共に戦わせてくれ」
織也はどもりながらも、英斗の目を見て自分の思いを伝える。
「織也君は九州の人なのか?」
「ああ……俺は九州で生まれ、育った。こんな魔物だらけになる前は、綺麗な景色も、場所も沢山あったんだ……。俺はまた取り戻したい」
「なるほど。理由は分かった。まだ全てを信じることはできないが、よろしく頼む」
「……いいのか?」
「敵意はないんだろう? それに実力は、誰にも気づかれずに接近された時点で分かっている」
「こちらこそ、よろしく頼む」
こうして謎の男、黒牙織也が仲間になった。





