熊さん(四本腕)
そこには巨大な体に鍛えあげられた四つ腕を持つ熊のような魔物『四腕熊』が鎮座していた。
全長は4mを超えており、その強大な爪による一撃はあらゆる物を切り裂くと言われている。四腕熊は獲物を見つけると体を上げる。四腕熊は自らが負けるとは微塵も思っておらず、その口には獰猛な笑みが浮かんでいた。
「ナナ、次は俺がやる。ナナは見ていてくれ。初めて見る魔物……楽しみだ」
そうナナに声をかける。
「さあ、やろうか」
英斗は長剣を握り構える。四腕熊は疾走し英斗に襲いかかる。
英斗は鉄壁を生み出し、四腕熊の一撃を受け止めると、炎の槍を生成する。鉄壁を破壊できないことを悟った四腕熊が鉄壁を迂回し英斗の元へ走る。
だが、英斗はその動きを読んでおり鉄壁から顔を出した四腕熊に炎の槍を放つ。
その炎槍は肩を撃ち抜いた。
「ガアアアア!」
四腕熊は悲鳴をあげバランスを崩す。先程の一撃で英斗をただの獲物から強者へと考え方を改める。
四腕熊は突っ込むことをやめ、様子を窺う。だが、四腕熊は無意識か一歩下がっていた。恐怖からである。
「流石獣か。本能で分かるのかね、勝てないって。逃げる獣を仕留めるのはあまり好きじゃないが……」
そう言って英斗は手から鉄の棘を生み出し、無数に枝分かれした棘が四腕熊に襲いかかる。四腕熊は驚きつつも躱しながら英斗に襲いかかる。だが、何十を超える棘を躱し切ることは叶わず貫かれながら前進する。
だが、その爪が英斗に届くことはなかった。英斗まで後、数mのところで地面から飛び出した鉄の棘に貫かれ絶命したからだ。
「ふう。ナナ、熊肉でも食べようぜ」
「ワウ!」
英斗達は熊肉を使い熊鍋を作る。時間をかけオークの解体を思い出しながら解体し、血抜きをする。人参、ごぼう、大根、エノキダケ、マイタケ、木綿豆腐、長ネギを『万物創造』で生み出す。鍋も生み出し、切った食材を入れる。顆粒昆布だし、味噌、みりんで出汁を作り、火にかける。
「美味い! 熊肉って固いイメージがあったけど、この熊肉は柔らかいし美味しいなぁ。やっぱり魔物の上位種の肉は現代日本の肉より美味しいのかもしれん。まあ普段A5のステーキなんて食べないから分からんだけかもだが」
「ワウワウッ!」
ナナも四腕熊の熊鍋を幸せそうに食べている。ナナはおかわりを御所望のようでそのあともしばらく熊鍋が続いた。
英斗達が満足して、残りの肉を氷漬けにしてタッパーに入れ毛皮を削いだあと、下の階に進もうとするとそこには銀色の宝箱が置かれていた。
15階まで来たが木製以外の宝箱を見たのは初めてである。
「これは、お宝の予感がするなあ」
英斗はワクワクしながら宝箱を開ける。ゲーム好きの英斗からすると、宝箱はロマンである。
大きな箱に反してその中には一つの指輪だけが収まっていた。
「これは……なんだ? ゲームだとだいたい指輪は特殊アイテムだけど……」
とりあえずつけてみるも全く何か分からない。これは常時発動する物なのか、魔力を込めたときに発動するものなのか。
英斗は魔力を指輪に流してみるも特に体に変化はない。
この場では何も分からないか、と諦めて進もうとすると四腕熊の死体が目に入った。
なんと四腕熊の死体の上に、四腕熊の解説が表示されていた。
『四腕熊 B級
四つの腕を持つ熊型魔物。強靭な爪で相手を切り裂く。肉は絶品』
「えっ!? なんだこれ!? 謎の文字が浮き出てる……不思議だ。この指輪の力っぽいな。魔物の名前やランクが分かるのは便利だ。そうだ! ナナの種族も分かるんじゃ!?」
英斗はナナを見ながら魔力を込める。
『鑑定不能』
なんとナナの種族は鑑定できないらしい。
「なんだこれ不良品か……」
英斗はため息をつく。物にも使えるのか魔物産の道具も鑑定してみる。
『鑑定官の指輪 VR
魔力を込めると鑑定スキルが無くとも魔物や道具を鑑定できる。』
『ハイオークの長剣 R
ハイオークが使用していた長剣を人間が扱えるサイズにしたもの。ハイオークを討伐した強者の証』
『イグニスの盾 R
魔力を込めると巨大化する使い勝手の良い丸盾。』
手持ちでよく使っている剣と盾も鑑定してみたが、アイテムにもレアリティがあるようだ。『鑑定』スキル持ちも杉並区に居たが、大した物を持っていない英斗は鑑定してもらうことが無く詳しく知らなかった。
「なるほど、意外に使えるかもしれんな。相手のランクが分かるだけでも危機察知できるし有難い」
そう言いながら、英斗は更に下層に潜っていく。
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