その者、死を司りて
佐賀市に突然黒と白を基調とした美しい天守閣ができたことを知らない者は居ない。天守には鯱の代わりに漆黒の髑髏は飾られている。真っ黒な瓦に積もる雪はその城の荘厳さを際立てていた。壁の随所に見える鉄砲穴からは鉄砲の代わりに、弓矢を持った兵士が外を覗いている。
その天守閣の最上階には、巨大なドラゴンの骨で作られた玉座が置かれており、そこに一人のアンデッドが鎮座していた。
威風堂々と座っているそのアンデッドの両手の指には、全て様々な力を持つ指輪がはめられている。黒く美しいローブを纏い、その手には神樹を削ってできたスタッフを握っている。
彼こそがこの城の主である死王レガシーである。すぐ傍には幹部である三体の姿があった。
「Everything becomes Born! Born is Everything! レガシー城こそが俺の城~! 男の夢さ~! まさに~天国~! って俺達アンデッドが天国は駄目か! 地獄だな、地獄!」
ハハハと大声で陽気に笑うレガシー。彼は立ち上がると、軽く舞うようにふらふらと揺れる。
「ずいぶんご機嫌だな、レガシー様は」
アンデッドパラディンが、エルダーリッチに声をかける。
「城が完成したからかねえ。楽しみにしてらしたからな」
腕を組みながら、エルダーリッチが答える。
「レガシー様、今日は随分とご機嫌ですね?」
アンデッドパラディンに声をかけられ、レガシーがそちらに振り向く。
「ディーンよ! これが心躍らずにいられるか? 城も完成し、遂に福岡への侵攻だ! この成功により、遂に我らはこの九州の制覇することになるだろう! ハハハ、このまま天下統一だ! 織田信長になる日も近いな! ちょんまげつけた方がいいかな?」
「なるほど、そっちですか……」
ディーンと呼ばれたアンデッドパラディンが納得する。
「こちらに来て、暇なときに戦国物の漫画や小説を見てから城造りなど色々してましたが、まさか天下統一を考えていたとは……」
エルダーリッチが少し呆れたような声色で呟く。
「エルド、それだけではないぞ! 九州制覇をすれば、勿論メシス様もお喜びになろう! 福岡には何万人もいるらしい。素晴らしい合戦になるだろう……」
「そうですか。まあ滅ぼす事は良いことですので何も言いませんが……。メシス様の話では、近く中々の強者が、魔法具を狙って現れる可能性があるという話でした。気をつけてくださいね」
エルダーリッチはエルドと呼ばれているようだ。
「それは私も手を打っているさ。虫を送り込んでいる、安心しろ。我が美しい城でも見に行こうかね。ちょっと外出てくるわ!」
レガシーは、気軽に手を上げると、城を出ようとする。
「ちょっ! あんた大将でしょうが! やられたら、どうするんですか!」
エルドが大声を出す。
「エルドよ、私がやられると思うか? この死王が」
「そ、それは……そうですね」
レガシーのその堂々とした返しに、エルドは何も言えずにただその主を見送った。
レガシーは外に出て自分の城を見つめている。
「うむ……やはり美しい! 雪の降り積もる城というものもオツなものだ!」
腕を組みながらハハハと陽気に笑っている。
だが、その隙を狙っていた侵入者の姿があった。その男は単独で城に入り込み、ずっとチャンスを伺っていたのだ。忍びの如く音もなく背後に忍び寄ると、その刀をレガシーに向けて振り下ろした。
「死王! その命貰ったああああ!」
その渾身の一刀は確かに、死王に直撃した。だが、その一刀はレガシーに傷一つ付けることはできなかったのだ。
「そ、そんな……馬鹿な……」
レガシーの纏う膨大な魔力の前には、半端な一撃では傷一つ付けられない。
レガシーはその顔を侵入者に向ける。
「ひっ……! た、助け……」
その圧倒的な格の違いに、侵入者の声には怯えが混じる。レガシーがその後発する言葉は、その男の想像とは全く異なっていた。
「素晴らしい! よくぞ一人でこの城に侵入してきたな! 魔力結界も潜り抜けてきたのだろう? まるで忍者だな! そして、単独で大将である私を狙うその胆力! 君は素晴らしい。是非とも我が部下にならないか?」
レガシーは全く怒ることも無く、スカウトを始める。初めは驚いたものの、助かるとおもった男はすぐさま返事をする。
「は、はい! なります! ならせてください!」
「ありがとう。これで君も私達の仲間さ」
レガシーはその男を軽くハグすると、口から息を吹きかける。すると、男の全身から肉の部分が崩れ始める。
「ああ……ああああああああああああああ!」
その男は、自らの体が朽ちていく状況を見て悲鳴を上げる。だが、もう止まる事はない。その男は結局すぐ骨だけの体になった。その頭蓋の眼窩からは先ほどのような意志は既に感じられない。
「それではよろしく頼む! 我が友よ。共に、天下を取ろうじゃないか」
まるで悪意も無く、悪気も無く、さも当たり前のような口調でレガシーはそう言った。ただ、新たな友が生まれたかのように。
先ほどの男は骨になり、ただ無言でレガシーに跪いていた。
死王レガシー。死を司るアンデッド族の王である。





