三幹部
「それにしてもお母さん、生きてたのならなんでお父さんの所に戻らなかったの?」
部屋に戻ると早速有希からの質問攻めが行われた。
「一度死王と戦った際、恭一郎や玉閃君ともはぐれてなあ。あれ以来どこにいるのかも知らないんだが、その言い方からして、有希は会っているのか?」
「名古屋に居たわ」
「結局名古屋に戻ったのか。だが、生きていたなら良かった。最近は一人で行動してたせいで、時間軸も曖昧でなあ。もう文明が崩壊して、一年だな」
「もう二年よ、お母さん。変なボケはやめてよ、こんな時に!」
そう言いながらも、有希は嬉しそうに母の背を叩く。千鶴も夫の無事を知り、安堵しているように見えた。
「千鶴さんもやはり死王を倒すためにここに?」
「ああ。魔法具の破壊が目的だったのだが、魔法具はどうやら死王の中にあるらしくてな。奴を倒さずに破壊は不可能だろう。君も魔法具が目的かな?」
「はい。目的は貴方と同じで、平穏を取り戻すためです」
それを聞いて、千鶴は優しそうな笑みを見せる。
「そうか……私以外にも、そんな青年がいるなら、日本もまだまだ安泰ということだな」
『安泰ー!』
英斗は照れて頭を掻いた。
「私も死王を倒し、魔法具を破壊したい。英斗君、ともに戦ってくれないか?」
千鶴は左手を差し出す。
「こちらこそよろしくお願いします」
そう言って、二人は握手を交わす。ここに打倒死王を掲げる、新たな同盟が誕生した。
翌朝、早速英斗達はプランを練る。
「正直言うと、真っ向から突っ込むだけだと死王に会うことすらできないだろう。奴には三体の幹部と十万の部下が居る。幹部は、がしゃどくろ、アンデッドパラディン、そしてエルダーリッチだ」
先から居る千鶴が英斗達に説明する。
「がしゃどくろって、妖怪でしょう……? 色々混ざってるわね。そして、アンデッドの癖にパラディンって……」
有希がツッコミを入れる。
「今でこそパラディンは聖騎士のイメージが大きいが、元々は高位の騎士と言う意味だったからアンデッドがなってもおかしくはない。まあ、諸説あるがな。アンデッドパラディンは巨大な馬の骨に乗った騎士だ。がしゃどくろについてはそのまま巨大な骸骨。エルダーリッチは死王に近いな。魔法を操る。どいつも強くS級上位といったところだ。気を付けてくれ」
「やっぱり、部下も強いんですねえ……。ですが、それだけなら玉閃達が負けるとも思えないんです」
英斗はそれを考えていた。玉閃と同程度が四人居たと考えると、そんな一方的に負けるとも思えない。
その言葉を聞いた千鶴は英斗の目をしっかりと見据えた後、大きく息を吐く。
「死王と、その幹部は死なないんだ……。なぜかな」
「死なない!? どういうことですか?」
「その言葉の通りさ。私はがしゃどくろの首を完全に斬り落とした。普通ならアンデッドでも死ぬはずだ。そうだろう? だが、奴はすぐに復活した。一度だけかと思い、何回も斬り落としたが、結果は同じだ。手を斬っても、足を斬ってもしばらくすると、再生するのだ……」
千鶴は大真面目な顔で告げる。
「だから……誰も勝てないんですね」
「まあ、どちらにせよ死王の首を落とした人間はまだ誰も居ないが、幹部は皆本来なら何度か死んでいるはずだ。おそらく死王のスキルか何かなのだろう。死を司る奴ならその程度できていてもおかしくはない」
「故に……死王、か」
英斗はそう言うと、椅子に大きく腰かけて大きく息を吐く。どうやら首を落として終わり、とはいかなさそうだ。
「謎は解けないが……どちらにしても、死王と一対一に近い状況に持っていくこと無くして、勝負にすらならない。十万体のアンデッドを仕留めるのは現実的ではない」
「そうですね。俺と有希は空を飛べるので、奴が屋上に居るのなら、強襲できますよ」
「それは大きなアドバンテージだな。だが、空にも奴の魔物は居る。スカルワイバーンや、アンデッドバードがな。空も飛べる二人のスキルはなんだ?」
英斗達はそれぞれのスキルや力を説明する。
「英斗君は随分万能だな。それを活かしたい。有希はやはり私の子だな、私も剣士系のスキルだ」
千鶴はそう言うと、武器を構えて笑う。その武器とは日本刀である。
「スキル『剣豪』だ。切れ味と、速さが自慢だ」
千鶴が居合いの構えを取ると、英斗の背中の毛が逆立つ。自分の位置が千鶴の間合いであることが、本能により感じられる。
千鶴の体が動いたと感じた次の瞬間、英斗の近くにあったペットボトルが斜めにズレ、水がこぼれ始める。
「こんな感じだ。レベルは七十五だから、有希よりも低い。我が子に負けるとは、私の鍛錬も足りないな」
千鶴は有希に負けたのが悔しいのか地味にショックをうけていた。
「スキルは分かりました。とりあえず、色々外で調べていいですか?」
英斗は、崩れ落ちている千鶴に尋ねる。
「ああ。そうするといい。だが、私も色々調べているが、そう大きな情報は中々ないぞ」
「俺達はまだ地形すら理解していないので」
英斗は、天守閣付近を探索することを決める。何か穴や、情報はないか、知りたいことは山ほどある。





