死王の噂
道を曲がるとすぐ、アンデッドに襲われている女の子を発見する。英斗は銃を生み出すと、アンデッドの頭を撃ち抜く。
頭の消し飛んだアンデッドはそのまま地面に倒れ込み、二度と動くことは無かった。
女の子は引きつり青くなった顔で英斗に頭を下げる。
「本当に助かりました……! 中心街の近くはアンデッドも少ないので油断してました」
「いえいえ、無事で何よりです。ここは危ないので安全な所まではお送りしましょう」
その子はフユといい、福岡市の中心街で生活をしているらしい。フユを連れて中心街までともに歩く。
福岡市は人だらけであったが、どこか少し物寂しい。色々な露店が出ており、食べ物や武器、道具などが売られている。子供もいるようで、親と共に食品を買っている。
人は東京に近いほど人が多いのに、少し静かに感じられるのは皆の顔が少し暗いからだろう。
「東京から来られたんですねー! もう車も動いていないのによく来れましたね」
「うちにはナナが居るから」
英斗が自慢げにナナを紹介すると、ナナは嬉しそうに一吠えする。
「ワウッ!」
「とっても大きいですね……。もしかしなくても、魔物ですよね……?」
「そうだけど、襲い掛かったりしないから安心してくれ」
「それを疑ってる訳じゃなんで、大丈夫です! それにしても、こんなゾンビだらけの九州になんで来られたんですか? 正直、逃げられるなら早くここから逃げた方がいいですよ? ここは多分……長くありません」
後半は消え入るように小さい声で、フユが言った。
「俺はあるアイテムを探しててね。死王からそいつを貰いに来たのさ」
英斗は不敵に笑う。それを聞き、フユの体が大きく揺れる。
「……死王が持ってるなら、それは諦めた方がいいです。あいつは魔物なんて言葉には収まらない……死神です。人が勝てるような生き物じゃないんです!」
フユは憎しみをこめて叫ぶ。その悲痛な顔から何かあったことが容易に想像できた。
「なるほど。けど俺は決して冗談で言ってるわけじゃ無い。冗談で東京から来ると思うかい?」
「それはそうですけど……。九州の強者達も皆負けたんです。九州最強と言われた人ですら死王に敗北し姿を消しました……。あんなに強かったのに……」
その言葉に英斗は唾を飲み込む。玉閃達も負けたことから強いとは思っていたが、やはり一筋縄ではいかないらしい。
「見たことあるの?」
「はい。九州ではその人は有名でしたから。孤高の人で、人と話しているところをみたことありません。けど恐ろしく強いんです。彼が戦った後は、必ず地面ごと魔物が粉々になっています。その戦いの跡から『粉砕者』と呼ばれていました」
英斗の脳内では、巨大な戦槌を振り回す筋肉達磨のモヒカンが再生されていた。
「強そうだな。けどそんな大物ですら負けたのか。けどだからと言って、退くわけにはいかない。死王について分かることだけでも教えてくれないか? このまますごすごと帰る訳にもいかなくてね」
「それくらいなら……。今、死王は佐賀市に天守閣を生み出しそこにいると言われています。十万近いアンデッドが天守閣を守っていると聞きました。元々死王は長崎に居たんですが、長崎を滅ぼした後、佐賀に移動してきたんです」
「十万って規模が大きすぎてよく分からないわね」
有希が首をかしげる。
「そこまでいくと、俺達だけで排除は不可能だから、本丸のみに焦点を当てるしかないな。どんな技をつかってくるとか分かる?」
「すみません、私は戦場には出てないので……。ですが、殆どの方は知らないと思いますよ。あった者は皆死ぬと言われてますので」
「いや、助かったよ。情報ありがとう。やっぱり最後は実地だね」
英斗は頭を下げると、フユに別れを告げる。
「小耳に挟んだ程度なんですが、福岡のギルドの精鋭で佐賀市奪還作戦を行うと聞きました。それにあわせたらどうですか?」
「いや、それに合わせるのもいいかもしれないがとりあえずこのメンバーで向かってみるよ、情報はありがたいけどね」
英斗は少し考えるも、精鋭の練度が不明である以上あてにできないと結論付ける。
フユと別れた後、福岡市を探索する。武器や食べ物も露店で販売されているが、東京よりも食べ物の価値が高い。そして食べ物の殆どは果物と野菜である。肉が無いのだ。ここの露店は魔石でやりとりされているようだが、東京より価格として魔石が一サイズ大きい。
「食べ物が相場より高いな」
「相場って、うちは他より安いくらいさ。一体どこと比べてんだ?」
英斗の何気ない呟きに、店主が眉を顰める。
「いや、すまない。言いがかりをつけるつもりは無かった。東京から来たんだが、そこより食べ物の価値が高く感じられてな」
「東京? そっちはまだ食べ物に余裕があるんじゃねえか? みりゃ分かると思うが、ここはアンデッドばっかりで食べられる魔物もあまり居ねえんだ。オークも見ねえだろ? アンデッドじゃあ殺しても食えねえ……。このままじゃ、魔物の前に、食料不足で死んじまうよ。最近は命がけで本州に亡命する奴らすら出る始末さ。俺も久しぶりに肉が食べてえよ」
店主は大きな溜息を吐く。やはり先ほど見たのは亡命者だったのだ。
「じゃあ、尚更あの死王ってのをなんとかしないといけないな」
「精鋭部隊で、佐賀市の奪還! と広場から百人程の男達が旅立っていったがよお。俺は正直無理だと思うね。あいつらは死王を見たことねえのさ。あいつはまさしく死神よ。人が適うもんとは思えねえね」
どうやら店主は佐賀から命からがら逃げだしてきたらしい。じきに南に逃げると、笑いながら話していた。そして、謎の精鋭部隊はここを既に旅立ったようだ。
「色々話ありがとうございます。これはお礼です」
英斗はオーク肉を渡して、店主に別れを告げる。
英斗達は佐賀市の天守閣を目指し、福岡を旅立った。





