エピローグ
「えっ!? 嘘なのか!?」
英斗は驚きの声を上げる。中々大胆な嘘である。
「俺達も五十階の扉までは行ったんだが、一人の男が扉に先に入って行き、討伐したんだ。その男は騒がれるのが嫌なのか、そのまま姿をくらましてな。俺達が討伐したことになぜかなっちまったんだ。で、俺達が踏破したという情報ばかりが広まってしまって……はぁ」
英斗はその謎の男に興味を持った。ソロでタワー討伐となると、間違いなく怪物である。
「どんな男だったんだ?」
「いや、黒いフードを被っていて、顔も見ていない。だが、体格的には男だったと……思うんだが。普段ダンジョンで見る奴でもなくて、誰も正体を分かってないんだ。ようやく言えたぜ、俺はそこまで強くないのよ」
背負っていた嘘を吐き出して、少しすっきりした顔をしていた。その後玉閃からその化物についてある程度情報を聞く。
「まあ、どちらにしても一回佐賀には向かってみるさ。ありがとな」
「さようなら、私も母さんを探しに佐賀に向かうから」
英斗の言葉の後、有希も手をあげ去って行こうとする。
「お前、私の話を聞いていなかったのか! あの自殺志願者の男はともかく、なぜお前まであの地獄へ行く! ここで大人しくしていろ! それなりのポストも用意してやる!」
恭一郎は有希の言葉を聞き、今日初めて大声を上げる。
「言ったはずよ、私の行き先は私が決めるわ。それが例え、地獄に繋がっていたとしてもね」
「……話にならん!」
恭一郎は机を大きく叩くと、椅子を回し、背を向ける。
「勝手にしろ」
恭一郎はそう、小さく呟いた。それを聞いた英斗が振り向くと、恭一郎の元へ歩いている。
「忘れてた」
「なん――」
次の瞬間、右ストレートが恭一郎の左頬を打ち抜いた。恭一郎はそのまま吹き飛び、地面に倒れこむ。
「貴方が黒幕じゃないことも、子供達を殺していないことも分かった。だが、有希を悲しませたことは忘れてない。これはそのお返しだ」
英斗はそう言って、部屋を去っていった。他の者も呆然とただ英斗を見送っていた。それを見ていた有希は、しばらくしてハッとすると英斗の後を追って部屋を出る。
「いやー、やられましたね」
少し笑いながら鈴木が言う。
「……五月蠅い」
有希達が出た後、恭一郎は深く息を吐き玉閃に目を向ける。
「玉閃、少し話がある――」
ビルからでると、悠とミカが泣きそうな顔でこちらにやってきた。
「兄ちゃん、行っちゃうのか?」
「ああ。ようやく目的地が分かってな。ついてやれなくてすまないな」
「まだ俺強くなってねえぞ! もっといてくれよ! そんな危ないことばかりしないで、名古屋に居ればいいじゃねえか!」
悠は不安そうな顔で叫ぶ。
「危なくても、やらないといけないんだ……。悠、お前はもう強いよ。お前は、勝てないと分かっていても、皆のためあの時戦っただろ? それこそが、本当の強さだ」
英斗は悠の頭を優しく撫でる。
「お姉ちゃんも行っちゃうの? 皆居なくなっちゃう……」
「ごめんね、ミカ。またいつか帰ってくるから、その時はあそぼ?」
「……うん」
ミカは涙声で、鼻水をすすっていた。湿っぽい雰囲気が漂う中、明るい声が後ろから聞こえる。
「わしじゃ! まだわしは借りを返せていないというのに、行ってしまうんじゃな?」
その声の主はアリスであった。
「アリス……。もう十分借りは返してもらったよ。助けに来てくれたじゃないか」
「あれはわしの敵討ちじゃから関係無いぞ! だから……何か困ったことがあったらわしの元に来い! 必ず助けてやるぞ! だから、死ぬなよ」
アリスはいつもと違い、真面目な顔で言う。アリスはレベルを考えると、死線をくぐったことも多いのだろう外の危険を知っているゆえの激励だった。
男前な美少女である。
「ありがとうな。何かあったらまた頼むぜ」
英斗はそう言うと三人に別れを告げた。
英斗は歩きながらついてくる有希に心配そうに尋ねる。
「いいのか? 話を聞く限り、佐賀は中々やばい奴がいるらしいぞ?」
『ねー』
「いいのよ。母さんがまだ居るかもしれないし。この目で確かめないと……」
どうやら有希は母が心配のようだ。
『無事だといいね?』
「ありがとう、ナナちゃん! それにしても、次は九州なんて……長旅になりそうね」
「なに、ゆっくり行こうか」
こうして、英斗達は佐賀に向かって旅立った。
その後恭一郎は少し穏やかになったようで、これから名古屋は少しずつ発展していく。
これにて8章は完結になります! ここまで読んで下さった方、全てに感謝を!
本当は昨日投稿する予定だったんですが、仕事に忙殺されてました。四月は色々環境が変わる季節にですので、皆様も体にお気を付けください。





