顛末
ここから先の展開は早かった。玉閃は華頂が魔物であったこと、ほむらがそれに加担していたこと、今回の騒動の引き金が、華頂の差し金であったことを公表した。
幹部であった玉閃の公表により、皆トップが魔物であり操られていたことにはショックをうけたものの、比較的早く受け入れられた。もし英斗の公表であればここまですぐ皆が納得することは無かっただろう。
そして、玉閃は高峰商会とほおずき会の合併を宣言した。元々玉閃は恭一郎の部下であったようなので、本人はようやく戻れるといったところだろう。
子供達を殺したのが、高峰商会の仕業ではないと分かった後でも、皆一度振り上げた拳を下ろすのは難しいのか、反発が大きかった。
だが、他に発言力のある幹部も居ないためなし崩しに決まった。
「うまくいいように使われてしまった」
英斗は少し遠くからあわただしく動く皆の姿を見つめて呟く。
「確かにね。父の手駒である、玉閃とアリスだけじゃ厳しかったと思うし」
同じく隣で体を伸ばしながら、有希が言う。のんびりしていると向こうから見た顔がやってくる。
「迷惑をかけたな。華頂が魔物ってことはうちも知らなかったんだよ。俺が知ったのも直前だ。この情報をなんとか恭一郎さんに伝えようと考えていたら、あの激闘だ」
玉閃が申し訳なさそうに頭を下げる。
「それにしても、ちゃらいお前が、あんな堅物の恭一郎と知り合いなのが謎だ」
「だから俺がスパイに任命されたんだよ……。スパイってのは本当に大変だから二度としたくないぜ。それにお前達には言ったはずだぜ? これでもエリートだってな」
英斗はそう言えば言ってたな……と思い出す。
「なるほどな。確かに、鈴木さんがスパイとして言ったらあそこまで馴染んでなかっただろうから、正しかったわけだ。高峰商会のアジトに突入した時、不自然に恭一郎が居なかったのは玉閃が逃がしたんだろ? まんまと騙されたよ」
「お前達があんなに早く来るとは思ってなかったから焦ったぜ。恭一郎さんを逃がしてすぐに入ってきたからな……。それに鈴木さんを殺そうとするんだもんなあ、ひやひやしたよ」
「そう言われると、最も危険な立ち位置に玉閃は居たんだな」
「そういえば、玉閃さん。私達は父のほおずき会を潰すという条件を奇しくもクリアした訳だけど、魔法具の在処は教えて貰えるのかしら?」
「その件で来たんだった。その件で、恭一郎さんがお前達を呼んでいる」
玉閃の言葉に英斗と有希は顔を見合わせると、玉閃に連れられ恭一郎の元へと向かった。
恭一郎は、華頂が討伐された後、すぐに元の本社ビルに戻っていたようで、前と同じように綺麗な革張りの椅子に座って英斗達を待っていた。鈴木も開放されたのか、横にすらりと綺麗な姿勢で立っていた。
「久しぶりですね、恭一郎さん」
「ああ。きな臭いと思ったが、あの男が魔物だったとはな」
世間話をするつもりはないのか、恭一郎はすぐさま本題に入る。
「貴方の条件なんて、するつもりは無かったんですが、結果的に叶える形になってしまいましたね」
「正直な男だ。子供の仇を討つために犯人を探っていたんだってな。今時、そんな善人が生きているとは。名古屋で有名な善人といえば華頂だったが、貴様は腹の中に何を飼っているのやら」
「ご冗談を。俺の手は既に汚れてしまっています。せめてこの汚れた手で、平和を」
「ふん。人を殺したくらいで……。まあいい。俺は約束は守る男だ、約束通り魔法具の場所を教えてやろう」
不快気に恭一郎が言う。
「ありがとうございます!」
英斗は本当に教えて貰えるとは思っていなかったため、素直に頭を下げる。
「……だが、お前達の望みは叶わんと思うがな」
「なぜです?」
「こんな世界になったのは、作為的なことくらいはお前達も分かっているだろう? そんな奴らがこんな大事な物を放置していると思うか?」
「……やはりそれを守る魔物がいる?」
英斗もその可能性は考えていた。
「そうだ。それも、とびきりの化物がな」
忌々し気に恭一郎が言う。
「恭一郎さんも一度行かれたんですか?」
「俺は付き添いだがな。千鶴と玉閃、尚文の四人で向かったのだ」
「えっ! 母さんも!? 母さんは今どこに……」
恭一郎の言葉に大声で反応したのは有希である。千鶴とはどうやら有希の母であるらしい。
「千鶴は……優しい、この世界で生きていくには優しすぎたのだ。日本の魔物の数を減らすために、魔法具を破壊しようと考えた。そして俺はそれに着いて行った。無理やりにでも止めるべきだったのだ。そして、俺達はあっけなく敗北した。彼女は責任を感じ、殿を務め……生死は未だに不明だ」
「なんで母さんを置いて帰って来たのよ!」
有希は大声で責めたてる。
「有希さん、どうか恭一郎様をお許しください。私達も勿論残りたかった。ですが、このままでは皆死んでしまうと悟った千鶴様が、恭一郎様と玉閃を気絶させたのです。私はその二人を担いて逃げることしかできませんでした。その後、千鶴様の姿をずっと我々は探していたのですが……結局それ以降姿を見ることは叶わなかったのです」
鈴木が、必死で有希に説明する。
英斗は話を聞いて、なぜ魔法具について聞いた時あそこまで恭一郎が怒ったかを理解した。彼にとっては魔法具は忌々しい記憶であったのだ。そして、そんな地獄に娘を向かわせたくないという親心があったのかもしれない、と英斗は考えた。
「けど……母さんだけなんて……」
有希はその場にへたり込む。普段は気丈にふるまっていてもやはり家族の無事は気になるだろう。
「魔法具はおそらく五つある。日本、アメリカ、中国、ドイツ。後一つは、まだ分かっていない。俺達が向かったのは当然だが、日本の魔法具だ。場所は……佐賀県佐賀市。後は行けば分かる」
当然だが、世界中に散らばっているようで、簡単に全て入手できそうにない。飛行機も無い、現在じゃ簡単にアメリカに行くこともできないからだ。
「佐賀県……、九州か。分かった、助かったよ」
英斗が気にせず魔法具を破壊しに動こうとするのを見て、玉閃が止める。
「あの化物は本当にやばいんだ。SS級は間違いなくあると思った方がいい……」
「やっぱり宝の前には門番が居る訳か」
「ああ。九州では死王と呼ばれている一番有名な魔物さ。あちらでは知らない者はいない。恐ろしい……名の通り死をつかさどる魔物だ」
「……ダンジョンタワーを踏破した玉閃が言うなら、そうなんだろうな。気を付ける。心配しなくても、無理して戦うつもりは無い。既に懲りてるからな」
英斗はイフリートを思い出して苦笑いする。
「いや……実はダンジョンタワーを踏破したのは、嘘なんだ」
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間違いなく、応援して下さったこちらの読者様のお陰です! ありがとうございます!
あちらも熱い作品になってますので、良かったら読んで下さいね(*´▽`*)
【タイトル】
不敗の雑魚将軍~ハズレスキルだと実家を追放されましたが、「神解」スキルを使って、帝国で成り上がります。全く戦えない臆病者なのに、勘違いされ気づけば帝国最強の大将軍として語られてました
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