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あの世でも部下に

「なっ!? ほむらか!」


 その一撃はほむらの背に明らかな致命傷を与えた。


「ああっ!」


 ほむらは血を吐きつつも反転し、その獣化により巨大化した体を使ってバフォメットを背で隠した。


「邪魔をするなら、お前も斬ろう!」


 英斗は動揺することなく、再度刀を構える。だが、ほむらも決死の覚悟であった。四本の脚を使い、斬られつつも英斗を拘束する。


「放せェ!」


 英斗は叫ぶも、獣人系スキルのほむらの怪力に敵う訳も無く、動きが止まる。だが、ほむらの命がもう風前の灯火であることを英斗は察していた。最後の時間稼ぎだろう、と英斗は考えていた。


「華頂様、私を愛していましたか?」


 ほむらは、後ろにいた華頂に尋ねる。


「……悪魔は、人など愛さぬよ」


 華頂は静かに言う。だが、そのぶっきらぼうな言い方を聞き、ほむらは微笑む。


「最後なのに、酷い人。お勝ちください、華頂様」


 ほむらは戦闘中にそぐわない、穏やかで優しい声で話す。


「ああ。ありがとう、ほむら」


 次の瞬間、バフォメットはほむらごと魔力で生み出した黒い棘で英斗の腹部を貫いた。


「ガフッ!」


 英斗の口から、血が吐き出される。体を拘束されていたため回避することなく、内臓を完全に貫かれたかたちとなる。

 そして、力を宿していたほむらの目から、光が少しずつ失われていく。英斗を締め付けている蜘蛛の脚の締め付けが緩くなり、最後に息を引き取った。


「貴様ァ! 仲間ごと……そこまでして勝ちを得たいのか!」


「ほむらはその覚悟を持って、お前を止めたんだ。お前如きには分かるまい」


 英斗は先ほどの棘を受けた内臓の感覚が無い。おそらくスキルの力で内臓の機能が止まったのだろう、呼吸に異常が現れる。


「ゴホッゴホッ!」


 動きが止まる英斗にバフォメットが追い打ちをかけようと杖を構える。


「ごめん英斗! こいつを逃がした!」


 その時、有希が英斗を拘束していたほむらを蹴り飛ばした。ほむらは抵抗することなく、地面に転がり込む。

 それにより、英斗とバフォメットの間を邪魔するものは何もなくなった。


 英斗は内臓の一部の感覚を失い、動かない体を無理に動かし勝負に出る。一足飛びに刀の間合いまで距離を詰めると、刀に魔力を纏わせる。

 だが、その行動を見たバフォメットは邪悪な笑みを浮かべる。


「ぬかったな! ここは私の距離よ! 『止マレ』」


 バフォメットは手から黒い棘を生み出し、止まった英斗の心臓を狙う。

 だが、英斗の体は止まることなく、その一撃を躱す。


「なぜだ!?」


 バフォメットはその黒い深淵のような目を大きく見開いた。種は簡単なもので、呪言の効かないランスロットが英斗の体を引き寄せたのだ。

 その数秒の時間稼ぎにより、英斗の体が呪言から解放される。


「俺の距離だったようだな」


 英斗は神力を全力で纏わせた獄炎刀でバフォメットの胴を二つに斬り裂いた。



 下半身を失ったバフォメットは、力なく地面に倒れこむ。もう長くは無いだろうバフォメットに近づき、尋ねる。


「お前は、ほむらを愛していたのか?」


 これはただの好奇心であった。悪魔である華頂のために、命をかけて庇ったほむらが報われて欲しかったのかもしれない。

 彼女の行動は決して許されるようなことではないことは知っている。だが、それでも聞きたかった。


「……さっきも言っただろう? 悪魔が人を愛することは無い」


 バフォメットから出たのは、素気無い言葉であった。


「そうか……」


 英斗は内心がっかりする自分に驚いた。


「……だが、奴はあの世でも……部下にしたいな」


 バフォメットは、最初の華頂のような優しい声色で言った。英斗は、その言葉を聞いた後、静かにバフォメットに止めを刺した。


「仇は討ったぞ、皆」


 英斗は空を見上げ、殺された子供達に黙祷を捧げる。バフォメットを殺したことで、体の失われた部位の感覚が戻って来ることが感じられた。臓器が正常に動き始め、苦しみが緩和される。


「ずっと、失われてたらどうしようかと思ったぜ。他の皆は――」


 英斗が他の戦闘の状況を確認するため、辺りを見渡す。既に戦いは終盤であるが、皆一騎当千の強者達、他の悪魔を追い詰めていた。

 バフォメットが討たれたことにより、自分の戦闘に邪魔が入るのでは、と周囲を警戒し始める悪魔達。だが、その隙をナナは見逃さない。


『よそ見は駄目だよ?』


 ナナへの注意が一瞬逸れた瞬間、ナナの渾身の氷魔法が悪魔を包み込む。悪魔がナナに視線を戻す頃には、氷漬けの悪魔が一体出来上がっていた。


「ナイスだ、ナナ!」


 英斗は可愛いナナの勝利に歓声をあげる。その頃既にアリス、玉閃の戦いも終わりを迎えていた。


「ふう……元ほおずき会のエースを舐めるんじゃねえよ。そっちも終わったようだな」


 玉閃は元同僚と上司とも言えるほむらと華頂の死体を見て、何とも言えない顔をしていた。


「ああ。仇は討たせてもらった。結局、こうなっては高峰商会の一人勝ちだな」


「俺は元々スパイとして潜り込んだ訳だが、今までほおずき会の皆に世話になったのも事実だ。悪いようにはしないよ」


「頼むよ。今回の抗争の原因も絶たれた訳だから、これ以上無用な戦いを続ける必要もないだろう」


 玉閃は英斗の頼みに快く頷いた。

新作です! 一章完結まで書き溜めてあるので毎日投稿します!

ハイファンの追放ものですが、本作を楽しんでくれた方なら必ず楽しめる熱い作品になってますので、是非ご一読お願いします!



タイトル

不敗の雑魚将軍~ハズレスキルだと実家を追放されましたが、「神解」スキルを使って、帝国で成り上がります。全く戦えない臆病者なのに、勘違いされ気づけば帝国最強の大将軍として語られてました


URL

https://ncode.syosetu.com/n1173ho/


あらすじ

 ロックウッド子爵家の長男、シビルが十五の時に与えられたスキル『神解メーティス』は質問の答えが「イエス」か「ノー」か分かるという非戦闘系のものだった。

 だが、ロックウッド子爵家は、代々腕っぷしだけでここまで成り上がってきた脳筋家系。


「次男であるハイルが『剣聖』のスキルを取った事は知っておろう。当主の座はハイルに譲ってもらう。お前のようなハズレスキルの長男など恥でしかない。今日中に我が領を、そしてこの国を出て行け!」


 遂に当主である父から追放を言い渡される。戦闘に向かない分、ロックウッド家の跡取りとして領地経営に尽力していたにも関わらずだ。そのうえ自分を邪魔と考える弟に命まで狙われてしまい、命からがら隣のローデル帝国に亡命することとなった。


 シビルは亡命先で商売から魔物退治までなんでも行い必死で生きていく。「神解」で得た知識を駆使し、どんどん無双して名を上げていった。


 一方で、シビルを追放したロックウッド領は領地運営の全てを担っていたシビルが居ないせいで、徐々に崩壊していく。


 名を上げたことでローデル帝国軍にスカウトされたシビルはそのスキルを使い、勝利を積み重ねていく。そしていつしか彼の名は帝国最強の大将軍として列国に知られていくのであった。

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  『復讐を誓う転生陰陽師』第1巻11月9日発売予定!
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