氷漬けにしてやんよ
8階の魔物も殆ど7階と変わりない。英斗達は、8階から人が減ったことを感じ再び駆ける。
8階を駆けていると行き止まりにたどり着いた。元に戻ろうとすると、行き止まりの奥には宝箱が置いてあることに気づいた。
「やったな、ナナ。だがあれは果たして本物なのか? トラップで死んだらいい笑い者だ」
英斗は警戒しながらも、宝箱を開ける。何かが飛んできてもすぐに防げるよう魔力を込めながらである。
だが、その宝箱はトラップなどでなくその中にはガラスの入れ物に入った赤い液体が入っていた。
「これは……ポーション?」
英斗は腕を少し斬り、その傷口に赤い液体をかける。その傷が瞬く間に塞がる。
「おお……本物のポーションだ。俺でも作れるかな、実物も飲んでみよう」
英斗は少しポーションを飲んでみる。少し苦いが飲めなくはない。わずかに傷が塞がったのでおそらく飲んでも効果はあるようだ。
英斗は魔力を込めポーションを生み出すようイメージする。『万物創造』は見たことも無いもの、空想の物でも生み出せるがその場合は多くの魔力が必要である。
見たことあるもの、体験したもの、よりイメージし易い物ほど生み出しやすい。味や効果、実物を見たポーションなら生み出せるのでは?と英斗は考えた。
英斗の手から赤い液体が生み出される。その液体は体の傷を塞ぐことに成功した。どうやらポーション生成に成功したようだ。
「よし! 薬草も生み出せるようにはなったが、ポーションの方が使い勝手がよさそうだ。これは助かる」
英斗は現在ナナとコンビである以上、英斗が回復役も務めなければならない。これは大きい収穫である。
英斗は喜びながら8階を一瞬で踏破し9階へ行き、10階へ降りる階段を見つけた所で再び英斗達は休むことにした。
簡易的な洞穴ハウスを作成し、英斗達は眠りについた。
起きた英斗達は水を飲んだ後、焼いたオーク肉をパンに挟み朝食とした。
朝食後、英斗達は10階へ降りる。
10階を探索していると、地上で見たこと無い、緑色の毛皮をまとった虎が現れる。さしずめグリーンタイガーともいうべき奇妙な魔物である。
咆哮で威嚇してくるグリーンタイガーを見てナナも一歩前へ出る。2匹は警戒しつつ周囲を回る。
その沈黙を破ったのはグリーンタイガーであった。咆哮と共にナナへ飛び掛かった。ナナは近づいてくるグリーンタイガーの頭部を左の爪で一閃する。
グリーンタイガーは吹き飛び、そのまま絶命した。どうやらナナの相手ではなかったらしい。
「相手にならんなあ、ナナ。もっと下に潜らなきゃレベルも上がらん」
10階にはオーク達もいるが、6階よりはどうやら強そうな魔物が出る。だが、今の英斗達の相手にはならなかった。
「よし、さっさと下目指すか」
「ワウ!」
ナナに騎乗し、駆けること2時間、再び見覚えのある鉄製の大きな扉が現れた。
「再びだなあ。とっとと降りるか」
そういうと、英斗は扉を開ける。
見覚えのあるオークの上位種、ハイオークであった。オークより一回り大きく、良い斧を持っている。周りにはオークが10体ほど槍を持ち武装している。
「今の俺達を相手にするには少し力不足だな」
英斗が構えると、ナナが一歩前に出る。
英斗が出るほどではない、ということらしい。
そのしぐさを見て、英斗は座り込む。ナナを信じているのだ。
「俺の出番中々来ないな」
英斗は苦笑いである。
ナナは優雅に尻尾を振りながらオークの群れに近づく。オーク達はナナを囲み一斉に襲い掛かる。
「ワオーーーーーン!」
ナナの咆哮と共にナナの体から凄まじい冷気が放たれる。その冷気はハイオークを含むオークの群れを一瞬で氷漬けにする。
氷漬けになったハイオークをナナはその爪で砕く。勝負は一瞬でついてしまった。
ナナはここ二か月前から氷魔法?を使えるようになった。おそらくナナは氷を使う魔物なのだろう。
「お疲れナナ。おそらくエリアボスだろうからまた宝箱をドロップすると思う。それを手に入れたら行こうか」
「ワウッ!」
その後、宝箱がドロップされる。中身は小さな盾である。腕に付けられるタイプで、魔力を込めると盾部分が巨大化するようである。
「これは……中々使い勝手が良さそうだ」
英斗は左腕に盾を装着し向こう側の扉を開け、下層への階段へ向かう。すると、階段を降りると1階にあったものと同じ赤い石が埋め込まれた謎の柱が立っていた。
その赤い石に触れると石から光が溢れ出す。光が収まると同時に、触れた掌に紋章のような物が刻まれていた。その紋章はすぐに消えたが、それと同時に謎の柱からアナウンスが流れる。
『11階を記憶しました。ワープ機能を解放します。ご利用先を選択してください』
その言葉と同時に空中に、1階、11階という文字が浮かび上がる。
「これが他のパーティーの言ってたセーブポイントか。すぐに一階に戻れるのはありがたいな」
まあ、今は戻らないけど、と英斗は思いながら先へ進む。
更に深部へ、ただ進む。