激突
「その体でまだ戦えるかな?」
バフォメットは直径二メートルを超える巨大黒炎を放つ。英斗は背中に翼を生やし、空中に逃げる。足を失った以上、翼で機動力を確保するつもりであった。
英斗はあの黒球の恐ろしさについて考える。今回は足であったが、あれを心臓や、頭に受けた場合は戦闘不能である。それに奴には謎の呪いの言葉もあるのだ。
「だが、俺のよさは万能性でな」
英斗は遠距離戦に切り替える。英斗は鉄の槍を大量に生み出し、バフォメットに放つ。素の身体能力も中々のもので、その槍を全て杖で弾き飛ばす。
英斗は再度鉄槍を生み出すと、今度は神力を纏わせ投擲する。その一撃は先ほど弾いていた杖を粉砕し、バフォメットの右肩を抉る。
「グウウ! この焼けるような痛み……神力か! 小僧!」
明らかに、今までより威力が段違いである。再生もしていないことを考えると、魔物相手に使うよりはるかに効いているように感じる。
「所詮は悪魔ってことだ。俺が神の使いとしてお前を沈めてやる!」
英斗は、神力ならあの呪いの黒球にも通じると直感が告げていた。
バフォメットが放った黒球を、神力を纏わせた剣で斬り裂く。
『止マレ』
バフォメットの言葉に、英斗の体が再び止まる。その隙に、黒球を無数に放つ。英斗はそれを予期していたのか、体が動けるようになった瞬間、地面から鉄の壁を生み出し、黒球を止める。
英斗は地面から神力を纏わせた鉄の棘を生み出し、バフォメットの足を貫いた。
神力により強化された棘に貫かれ、バフォメットは叫び声をあげた。
「効いてるな!」
英斗はその隙を逃すまいと、いっきに勝負をかけるため距離を詰める。
『吹キ飛ベ』
だが、再び底冷えするような声を聞くと、英斗はそのまま吹き飛ばされた。
「なんでもありかよ!」
英斗は、耳栓を生み出すと、耳に詰める。音を制限することで、不利にはなるが、呪言を防ぐためである。
「そんな小細工が効くとでも? 『混乱シロ』」
その言葉と同時に、英斗は自分がなぜここにいるのか、目の前の魔物は誰なのか、思考が停止する。
英斗はただ立ち尽くす。その隙に、バフォメットは黒球を頭部に飛ばす。
だが、英斗の装備『フェニクスの兜』が英斗に危機を知らせる。
何も分からない英斗はただ、反射的に黒球を躱すと、目を覚ます。
「厄介な力だな」
英斗は、小型ミサイルを十基ほど生み出すと、一斉に発射する。家くらいなら一撃で消し飛ばす威力を持つミサイルである。
バフォメットは黒い壁を地面から生やし、ミサイルから身を守る。だが、少しずつ壁は削られ、二発被弾する。
「グウウ……!」
火傷を負いながらも、手から黒い棘を生成し、英斗へと棘を伸ばす。火傷はやはり再生していくようだ。
「我が騎士!」
英斗は2体の動く甲冑我が騎士を生み出す。魔力を纏いし、一流の騎士である。
奴の素の戦闘力はそこまで高くない……ダンジョンタワーで揉まれた俺なら、押し切れる!
英斗はそう感じ取ると、一気に攻勢をかける。
ランスロットは、黒い棘を躱しつつも、バフォメットに斬りかかる。
『止マレ』
呪言により英斗の動きは止まるものの、ランスロットは止まることなくその剣でバフォメットの腹部を斬り裂いた。音を聞くことのできないランスロットには呪言が通じない。
左右から襲い掛かる二体のランスロットに気を取られ、英斗への注意が途切れる。
「超電磁砲!」
その隙に、超巨大砲台が現れる。全長10mを優に超えている、こんな崩壊後の世界には似つかわしくない近代兵器が顔を出す。英斗は砲弾に神力を纏わせる。一瞬にも満たないチャージの後、目で追うことすらできない速さで、砲弾がバフォメットを貫いた。





