呪い
他の者は皆それぞれの敵とぶつかり合っている。
「なぜ子供をころした?」
英斗は怒りを押し殺しながら元華頂、現バフォメットに尋ねる。
「快楽と成長よ。人だって生きるために生き物を殺すだろう?我々魔物が人間を殺そうとするのは本能よ。我は、その血肉によって成長する」
「そうか……。なら俺がお前を殺すのも否定はできまいな。ただ、復讐のためにお前を殺そう」
「なぜおまえは戦っている。殺すことに喜びを得ているからだろう?」
「違う。俺は世界から魔物の居ない世界を取り戻すために戦っている。もう、皆が死なないように……傷つかないようにな!」
英斗は叫ぶ。
「愚かな……。まだ現実を受け止めきれていないのか! もう世界は我らに飲み込まれた。あとは時間の問題よ! 大人しくその少し強くなった力で余生を過ごせばいいものを」
「必ず、また平和な世界を取り戻して見せる。あいにく俺は贅沢でな……俺が望む未来は、一人で生きるだけでなく、皆と笑い合える未来だ。そのためにはお前は邪魔だ」
次の瞬間、英斗は獄炎刀を抜き、バフォメットに襲い掛かる。
バフォメットは杖を生み出すと、その一撃を受け止める。だが、その一撃に耐えきれず杖は両断され、英斗の刃はその体を斬り裂く。
「良い刀だ」
バフォメットは口を開くと、黒い小さな球体を放つ。英斗は本能的に危険を感じ、すぐさま回避する。バフォメットは斬られたにも関わらず、意にも介していない。それもそのはず、バフォメットの傷すぐさま自動再生していた。
あれはなんだ? 英斗は疑問を持ちつつも襲い掛かる。
英斗の射程距離に入る直前、バフォメットが口を開く。
『止マレ』
おおよそ声とは思えないような、人間の恐怖の根源を刺激するような言葉を聞き、英斗の体が完全に硬直する。
奴の能力か? まずい……英斗はなんとか体を動かそうと力を入れる。
バフォメットは英斗に黒炎を放つ。英斗はその黒炎が直撃する間際、体の自由を取り戻し回避する。
「グウッ!」
英斗は右腹部を焼かれたが、なんとか致命傷を避ける。
「厄介な力持ちやがって!」
英斗は叫びながらも、必死に能力を分析する。射程距離はあるのか、数は、バリエーションはあるのか。
英斗が距離をとりつつ様子を伺っていると、バフォメットは浮いた体を英斗の方へ静かに動かす。
「言葉は呪いよ」
バフォメットは両手に黒炎を纏わせると、英斗に向けて放つ。
英斗はそれを回避しつつも、バフォメットに刀を振り下ろす。
『虚』
その言葉と同時に、バフォメットの手からイフリートが現れ襲い掛かってきた。
英斗は、一瞬体を強張られるも、すぐさま一閃をイフリートに浴びせる。だが、その一撃はイフリートを斬り裂くことなく、空を斬る。幻影であったのだ。
その致命的な隙をバフォメットが逃すわけも無く、口から放たれた黒球は英斗の右足に命中する。
その瞬間、英斗の感覚から、右足が失われる。あるはずの右足は、全く動かすことができない。まるで自分の足でないようなその感覚に、英斗は恐怖に襲われる。
「その右足は貰ったぞ。人間」
再度、バフォメットが黒球を放つ。英斗はまだ動く左足で飛び逃げる。
英斗は、恐怖を抑えながら、必死に頭を働かせる。
「呪いか?」
英斗の問いに、バフォメットは答えない。ただ、その黒羊の顔に、邪悪な笑みが浮かぶ。





