自問自答
騒ぎを見て、玉閃が駆けつける。玉閃もその惨状に言葉を失う。
「こ……こんなひでえことを誰が……」
「玉閃か」
血塗れの英斗を見て、玉閃が構える。
「違う、俺じゃない。犯人はこの間、ほむらが揉めていたバンダナ男だ。黒崎さんに聞くといい。彼女は一命をとりとめた」
「そうか……。一応、その場から動くんじゃないぞ」
警戒しつつも、中に入っていく玉閃。しばらくして玉閃が戻って来る。
「どうやら、本当のようだな。疑ったようですまない」
「別に……構わないさ。それより、あのバンダナ男は高峰商会の者なのか?」
「少なくともうちではないな。あいつは自らを高峰商会と言ってはいたが、こんなひどいことを……なぜ……。そこまで外道ではないはず……」
あまりの酷さに、玉閃も驚きを隠せないようだ。子供を狙って殺すなんていくら抗争とはいえ酷すぎる。
「俺は少し高峰商会本部に向かう」
英斗は玉閃に言う。
「……危険だぞ、今は」
「承知の上だ」
英斗は児童園を去り、ビルへ向かっていった。
ビルに辿り着くと、英斗は翼を生やし、恭一郎の居る五階の部屋に窓から突入する。
だが、そこには誰も居ない。
「逃げたのか?」
騒ぎを聞きつけてやっていた商会の者から力尽くで話を聞くも、恭一郎や、鈴木の場所を知ることは叶わなかった。
この日から、恭一郎は姿をくらませた。
その夜、英斗達は児童園を出て、近くの廃アパートに身を寄せる。埃っぽく、食べ物などは何も無いが、ベッド等家具はそのまま残っているようだ。
「貴方、本当に大丈夫?」
有希は英斗に尋ねる。子供が死んだことも、人を殺したことや色々である。
「大丈夫だ。有希こそ、大丈夫か?」
本当は微塵も大丈夫では無かったが、英斗は嘘を吐く。自分があの場に居れば……後悔の念が英斗を捕らえていた。
「そうね。未だに実感が湧かないわ。だって朝まで生きていたんだもの」
有希の顔も暗い。
「その通りだ。実行犯は全員あの世に送ってやったが……なぜこんなことになったのか」
「あいつは居なかったんでしょう?」
「ああ。もぬけの殻だ。ほおずき会側もこの非道に怒り狂い、全面戦争だ」
「あいつを捕らえましょう。その結果、何があろうとも、身内の不始末は私がつけるわ」
英斗はそれを聞きつつ、有希に手を染めさせないよう自分が動こうと決意する。
「まずは、恭一郎を探そう。このままじゃ何人死ぬか……」
「そうね。おやすみなさい」
有希は自室に戻っていった。
一人になった英斗は殺した男達を思い出していた。友を殺してしまった時とも違う、自らの意志で殺してしまった男達を。
「結局、人を殺さずなんて綺麗事でしかなかったか?」
英斗は自問自答する。
自分の罪を正当化するつもりなどは無かったが、殺さねばならない者も居る、と自分に言い聞かせた。
「大切な者を守るためには、時にこの手を汚さなければいけないか……」
英斗は、膝においた刀を見て呟く。
悠達のような犠牲者が今後出ないように、きっとこれからも自分は刃を振るい続けるだろうと、英斗は考えていた。
英斗はこの戦争を止めるために動くと決めた。





