惨状
児童園自体に大きな変化は無い。塀も破壊されてはいないようだ。だが、英斗は門から中に入った瞬間、その惨状に言葉を失った。
「う、嘘……だろ……」
今日の朝まで元気に走り回っていた子供達が血だらけで倒れていたのだ。英斗の心臓は早鐘を打ち、動揺で手が震える。
三人の探索者も全員外のグラウンドで倒れて、ピクリとも動かない。
だが、まだ助かる命があるかもしれない。足を止めずに、子供達に駆け寄る。
「今、助けてやるから……」
女の子の手を持つと、その冷たさで全てを察する。既に死んでいたのだ。
「そんな……ひ、酷い。酷すぎる……」
有希が口を抑えて、嗚咽を堪える。
「ま、まだ生きている子が居るかもしれない。さ、探すぞ……」
英斗は怒りで気が狂いそうになる自分を必死に自制する。それよりも子供の命であった。児童園の建物の中に入ると、黒崎が倒れている。
「黒崎さん! 生きてますか!?」
黒崎は、英斗の声に僅かに反応する。
「え、英斗さん? あちらで子供が……襲われ……お願い」
黒崎は震える手で、中庭を指す。
「分かりました。手当を頼む」
英斗はポーションを生み出した自動人形に渡し、中庭へ向かう。
そこで、英斗は倒れている男の子を見つける。
「ゆ、悠……」
英斗は発見した顔を見て、絶望する。悠の元に駆け寄ると、僅かにまだ脈があった。英斗が来たことに気付いたのか、僅かに薄目をあけ、かすれた声で英斗に伝える。
「ま、まだ……皆が中庭に……。俺、弱いから……守れなかった……」
悠は戦ったのだろう、自分の弱さに涙を流す。
「もう、話すな! 傷に障る! 後は……俺に任せろ」
悠はその言葉を聞き、安心したのか気を失う。自動人形に世話をさせ、英斗は立ち上がる。
英斗は鬼のような形相で、中庭に向かった。
中庭では、女の子を剣で突き刺そうとしている男達の姿があった。どうやらトップは赤いバンダナを付けた少し前にほむらと争っていた男のようだ。あの時共にいた部下も連れている。
「やべえ、あいつらが戻ってきました!」
「なっ! だが、もう十分だろう。逃げるぞ!」
英斗の姿を見た男は子供を投げ捨て、逃げようとする。
「逃がすと、思うか?」
英斗は、まさに鬼気迫る殺気をむき出しにしたまま一瞬で距離を詰める。
「は、速す――」
英斗から逃げられないと感じた部下の剣を振るう。英斗はその両腕を一閃で斬り落とすと、そのまま首を撥ね飛ばす。
「ば、化物!」
部下の一人が、怒り狂う英斗に怯える。
「は、話が違うじゃねえか! 畜生!」
バンダナ男は叫ぶ。全員が剣を取り、バンダナ男は手から爆弾を生み出すと、投擲する。
英斗は無言で鉄槍を生み出すと、全員の心臓目掛けて放たれる。
「グエッ!」
「ガア!」
部下達はその槍を心臓に受け、そのままピクリとも動かない。
「か、勝てねえ……人間は殺せないんじゃ……!? 」
バンダナ男は、全滅した部下を見て震える声で言う。鉄槍を腹部に受けたもののなんとか体を引き摺りながら逃亡を試みる。
英斗はバンダナ男の目の前まで接近すると、ゴミを見るような目でバンダナ男を見据える。
「ここに人など、居ないだろう?」
次の瞬間、英斗はバンダナ男を一刀両断した。周囲は、英斗の戦闘により血だらけである。英斗の恰好も、返り血で真っ赤に染まっている。
「英斗……大丈夫?」
有希は、絶望したような顔をして、剣を持ち佇む英斗を心配して声をかける。
「大丈夫だ、どれくらいの被害が?」
「……探索者三人と、子供が五人亡くなったわ」
生き残りの中にはミカも居た。怪我はしていたものの、軽傷だったようだ。八割以上が生き残っていたのはおそらくあの探索者のお陰だろう。
「そうか。俺のポーションで治療しようか」
英斗は平坦な声で返事をする。英斗が、助けた女の子を見ると、少しだけ怯えたような顔で英斗を見ていた。
「有希、その子を治療してやってくれ」
「分かったわ」
英斗は大量のポーションを有希に渡して、その場から去った。





