嫉妬すら愛おしい
6階に着いた後、時計を見ると午前3時になっていた。仮眠をとったとはいえ眠気を感じた英斗は一度睡眠をとることにした。
行き止まりを見つけた後、英斗は能力を使い簡易的な木製の壁を作り密室を作りあげる。英斗はそこに簡易ベッドを作成する。木製のフレームを生み出し、その上に布団を生み出す。そこまでよい布と羽毛を生み出せなかったので、できはいまいちであったが野宿の100倍はましな出来である。
ナナと簡易的な食事を行ったあと、英斗達は眠りについた。
手作り洞穴ハウスから起きた英斗は食事後、さらに奥へと向かう。
6階からは少し強くなるのか、オークやスライムが襲ってくる。スライムは杉並区でみることはないので英斗も初めての出会いであった。
青く中身は透き通っているが、槍を投げたところ槍はスライムの体を貫いたのだがその槍を溶かしてしまった。
どうやら体に触れるのは危険のようだ。
大きさは1.2m程で体内に丸い核のようなものがある。核を鉄の棘で貫くと、溶けて消え去ってしまった。
何もドロップしないことを考えると中々戦いたくない相手である。英斗のレベルは既に30を超えていることもありたいして相手にもならず、経験値?も貰えない敵に時間を割くのは避けたい。
英斗はオークを狩り、肉を氷漬けにする。氷漬けにした肉2㎏程を、生み出したタッパーに入れる。
「プラスチックは自然素材じゃないから魔力をよく使うんであまり作りたくないんだよなあ……しかも俺が作ったやつじゃあんま密閉できないし。やっぱり技術ってのは偉大だねえ」
と呟きながらリュックに入れる。英斗はナナに乗り再び洞穴を駆ける。
「ワウーーー!」
ナナはご機嫌で穴を駆けている。途中で全長30㎝程の蝙蝠の大群に襲われる。
「ナナ、そのまま突っ切れ! 正面突破だ!」
英斗はナナの上部を英斗ごと透明なバリアで囲む。蝙蝠たちはバリアにぶつかりつつ、ナナに弾き飛ばされる。
縦横無尽に駆け抜けたナナが7階の階段を見つけたのは、走り始めてから1時間後くらいであった。
7階におりると、そこには二足歩行をしている巨大なトカゲがいた。全長は170㎝程はありそうである。
英斗は鉄の棘を生み出し先制攻撃をしようかと考えたが、あれはスキル『蜥蜴』の人間かもしれない、と考え直し声をかけることにした。
「こんにちはー、何してるんですか?」
「シャ―――!」
うーん、これは蜥蜴!!
と決断せざるを得ない素敵な返事を頂いた英斗は、鉄の棘でリザードマンを貫く。
「あほらしいな……」
倒れたリザードマンを放置して再びナナに騎乗する。
ここはどうやらリザードマンやオーク程度の魔物の場所らしい。初心者から中級者の間くらいの人におすすめの狩場である。
「この世界にもギルドできたし、S級冒険者とかできるのかねえ。生き残ってるの若者多いしいつかできそうだよなあ。今のギルドって正直名前だけでそこまで権力もない各区の寄り合いだもんなあ」
英斗がぼやきながらナナに乗って探索をしていると、前方から剣戟の音が聞こえる。どうやら戦闘のようだ。
「ナナ、ストップだ。侵入してるのもあってあまり会いたくない。こっそり覗き見るか」
英斗はナナから降りて音の先をゆっくり覗き見る。
そこにはオークと戦う4人組の姿があった。
「動き止めるわ!」
後ろで命令している女の子は弓道の弓を構えている。元弓道部だろうか。矢をつがえて強く弓を引くと、オークの右足に矢を放つ。
その弓はオークの右足に刺さると、オークが痛みでバランスを崩した。
「任せろ!」
返事をした男は左手だけ通常の3倍くらいの大きさがあった。その腕はさながら巨人の腕とも形容できよう迫力があった。
びきびきと、血管が浮き出たその左腕を渾身の力で振るうと、オークの顔面を殴り飛ばす。オークは体ごと吹き飛び、壁に叩きつけられ、ぴくりとも動かない。どうやら勝負は決したようだ。
男は、一撃一撃に相当魔力を使うのか、息を吐き座り込む。
「お疲れ様~!」
周りを囲っていた二人も、座り込んだ男に声をかける。
「安定してオークならやれるようになったな、もっと降りるか?」
「うーん、まだ安全マージン取りたい気するけどなあ」
「とりあえず肉食べようよー」
がやがやと楽しそうに話す四人組。皆20前後であり、英斗とそれほど変わらない。それをなんとも言えない顔で見る英斗を見て、ナナががぶりと頭を甘噛みする。
「ナナ、俺が羨ましそうに見てたから怒ってるのか? 俺はお前と一緒に居れて幸せだぞ?」
そういってナナの腹を撫でる。ナナはそうだろう、とご満悦で顔を緩ませる。英斗は結局彼らと関わること無くその場を立ち去った。
英斗達はその後も下への階段を探し回ったが、他にも数組パーティを見つけた。どうやら6~7階は良い狩場らしい。
英斗は8階への階段を見つけ更に下に向かった。