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決別

 リザードマンが森を闊歩しているところを二人が見つける。二人は無言で頷くと、ミカだけが前に出る。その顔には、覚悟、緊張と様々な感情が入り混じっていた。

 リザードマンがミカに気付く。子供のミカを見て、少しだけ警戒心を解きつつも腰に差している曲刀を抜いた。


 先に動いたのはミカだった。美しい黒髪は伸ばすと、ツインテールのように二つの束を作り、リザードマンに襲い掛かる。

 リザードマンは突然伸び襲い掛かってきた髪に驚きつつも、片方の束に火を噴く。


「わわっ!」


 突如燃やされた毛に驚きの声を上げるミカ。


「油断しないで! くるわよ!」


 有希の声と同時にリザードマンが走り距離を詰める。

 ミカの反応が遅れ、恐怖が顔に出る。

 有希はミカとリザードマンの間に盾を生み出し、リザードマンの曲刀での一撃を受け止める。


「恐れるな! 前を向いて、その目で奴を見定めて戦うのよ! 自分の未来は自らつかみ取りなさい!」


 有希が檄を飛ばす。その言葉を聞き、しっかりとリザードマンを見定めるミカ。


「はいっ!」


 リザードマンも盾を警戒し、再び距離を取る。


 リザードマンが再度距離を詰めるため、走る。それに合わせて、ミカは再び二束の毛でリザードマンの拘束を狙った。

 リザードマンが火を噴こうとした瞬間、その毛束がさらに二つに分かれる。一束だけ燃やされたものの、残りの三束がリザードマンを手足を捕らえた。

 だが、リザードマンの力は中々のもので、強引にその拘束を解こうと暴れ始める。


「逃がさない!」


 ミカは再び魔力を込め大量の毛を伸ばすと、リザードマンが火で燃やすより速く全身を拘束する。

 動きの止まったリザードマンの首に、一本の毛をかけることに成功した。


「もらった!」


 その言葉と同時に、魔力をその毛に込めその首を切断した。

 派手な血飛沫と共に、その首が宙に舞う。そのまま放物線を描き、ごとりと首が地面に転がる。それにより体が力を失い、倒れ込む。

 そこまで魔力が無いのだろう、魔力切れにより疲れ切ったミカが有希を見る。


「やったよ……! 勝った……! 仇を獲ったよ!」


 泣きそうな顔でミカが言う。


「お疲れ様」


「お姉ちゃんのお陰で、自分の手で仇を取れた。ありがとう!」


「こちらこそ、ありがとう。おかげで私も過去の呪縛から解放されたわ」


 ミカに言っていた言葉は、過去の自分に言っていた言葉でもあった。

 自分より幼いミカが、過去と決別するために命がけで頑張ったのだ。有希は、自分も父という過去の呪縛から、そろそろ決別する時が来たのだと考えていた。

 大事な事は自分で決断しないといけない。有希は自らの心に誓った。






 翌日、有希は恭一郎に会いに行くと英斗に伝える。


「何かすっきりした顔をしているな。良かった」


「そうかも。もしかしたらもう在処(ありか)は教えて貰えないかもしれないわ。御免なさい」


「別にいいさ。元々こちらはもう手だてなんて残ってないんだからな。好きなように話してきな」


「ありがとう、英斗。行ってくるわ」


 有希は自らの意志を恭一郎に伝えるために、彼の居るビルに向かう。


「入っていいかしら」


 恭一郎の居る部屋の扉をノックする。


「……入れ」


「失礼します」


 有希は前回来た時と違い、落ち着いた雰囲気を纏っている。恭一郎はそれに少し違和感を感じた。


「何しに来た? ほおずき会を潰す覚悟ができたか?」


「覚悟はできたわ」


 その返事に、恭一郎は少しだけ顔色を変える。


「ほう、お前もやはり高峰家というこ――」


「貴方の条件を断る覚悟がね。私は自分の意志に従う。ほおずき会を滅ぼすつもりはないわ」


 高峰は堂々と言い放つ。そこにもう迷いはなかった。


「いいのか? それでは魔法具の場所は分からんぞ? あの男は困るんじゃないか?」


「あなた以外にも、知っている人は絶対居るわ。これは決別。貴方という呪縛から解き放たれるためのね。今まで世話になったわね。さようなら、父さん」


 言い終わった有希は恭一郎の返事を聞くこともなく、部屋から出ていった。

 部屋には恭一郎と、鈴木だけが残されていた。 







 児童園に戻った有希は神力の扱いを練習していた英斗に、条件を断ってはっきり決別したことを告げる。


「ごめんなさいね」


「別にいいさ。俺と有希は別ということでまた頼んでみる」


「そんな言い訳聞くとは思えないけど……」


「まあな。他の人探すしかないかねえ。悠への修行が一区切りしたら、魔法具を調査していた会社の跡地にでも行こうか」


 現状恭一郎側と仲は良くないため、英斗達は他の方法についても考え始めた。

 一方その頃、闇に紛れて児童園を見ながら男達が居た。その目は子供を見る穏やかな目では無く、獣が獲物を見定めるような目をしていた。


「あいつらが児童園から離れた後、計画を実行する」


 男は冷たい声色で淡々と計画を部下達に説明する。


「本当に大丈夫なんでしょうか?」


「手筈は整っている」


 部下達は少し不安な顔をしつつも、やがて頷き剣を握る。子供達の笑い声の響く児童園の近くに人災が音を立ててやって来る。

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― 新着の感想 ―
[一言] 逆にそっちを潰すくらい言えたら良かったが、過去の関係から父親に対して精神的にかなり弱いね。
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