謎の友情
翌日、英斗は再び高峰商会のビルに交渉のために向かったが、その返事は素気無いものであった。
「本日は、恭一郎様はいらっしゃらない。また改めるんだな」
玄関に居た警備員らしき男は淡々と言う。
「じゃあ、待ちますので」
「貴様がほおずき会の施設に出入りしていることは知っている。これ以上居座ると敵対行為とみなすが、よろしいか?」
「……失礼します」
ほおずき会に迷惑はかけられないと考え、英斗はおとなしく児童園に戻ることしかできなかった。
児童園に戻った英斗は、黒崎との話を思い出し子供達と遊ぶことにした。
「英斗兄ちゃん遅ーい!」
「そんなこと言うと、本気出しちゃうぞ!」
英斗は子供たちとおにごっこに興じている。
すると突然、ギイ、という門が開く音がした。
「あー! 華頂さんだー!」
子供達が声を上げる。どうやら中々人気者なのか、子供達がそちら側に集まる。
「皆、今日も元気だねえ」
にこやかにほほ笑みながら、三十代後半の男性が子供達に囲まれながら現れる。黒髪短髪で、くしゃりと笑う顔は温厚さを感じさせる。戦闘よりも、畑仕事の方が似合いそうな人である。
「君達が月城君と、高峰君だね。ほむらとももう会ったらしいね。彼女は少し変わっているが、良い子なので仲良くしてくれると嬉しい。ほおずき会の代表をしている華頂満月という。色々児童園のためにしてくださってると聞いている。今後もよろしく頼む」
そう言いつつ、子供たちの頭を撫でる。
「こちらこそ、突然お世話になって申し訳ありません。できる限りさせて頂きます」
英斗が頭を下げる。英斗は頭を下げつつも、華頂がほおずき会という五千人を超える集団のトップであることに納得を覚えた。どこか従いたくなるような雰囲気を感じるのだ。
「いやいや、あまり歓待もできないがゆっくりしていってくれ。最近は少しぴりついた雰囲気だが、本来ここは穏やかなところなんだよ。黒崎さんはどこかな?」
華頂は一礼をして黒崎を探しに室内に消えていった。
「確かに、穏健派って感じね。父とは合わなさそう……」
有希が呟く。
「合わんだろうなあ……」
有希と話していると十歳の男の子、悠が英斗の背を叩く。
「英斗兄ちゃんが鬼な! ぼさっとしてっからだ!」
どうやら鬼を押し付けられたらしい。
「仕方ない。捕獲されたいようだな!」
そう言って、英斗は悠を追いかける。
「英斗、あんたちゃんと考えてるんでしょうね……」
有希は呆れつつも、他の女の子の面倒を見ていた。
英斗が子供達と遊んでいると、この間お腹を空かせていたアリスが1人で歩いているのが目に入る。
「アリスも一緒に遊ぶか~?」
英斗がアリスに手を振る。
「わしは敵とは遊ばぬ。わしは高峰商会なんじゃ! うちとここは仲が悪いと聞いておるぞ!」
と警戒心むき出しに言う。小さい子猫が精一杯虚勢をはっているような可愛さがあった。
児童園に居ないことから、そうかと思っていたがアリスはどうやら商会側の人間らしい。
「そんなこと言うなって。子供はそんなこと気にしなくていいんだよ。ほら林檎もあるぞ?」
そう言って林檎を生み出す英斗。それを見てピクリと反応するアリス。
「う、ううむ。だが、わしはそんなみえみえの罠にはひっかからぬぞ!」
「桃もあるぞ」
手から桃も生み出す。
「手品師のようじゃのう……。そこまで言うなら遊んでやらんでもないぞ。仕方ないのう!」
アリスは桃を食べながら、にっこり笑う。やはりちょろかった。
「皆、アリスも入れていいよな?」
「「「いいよー!」」」
子供たちは素直にアリスを迎え入れる。そしてアリスを入れた鬼ごっこが始まった。アリス以外の子供達はレベル十前後なので、そんなに速くは無かったが、アリスの速さは異常であった。
英斗のレベルはイフリート戦を経て八十まで上がっていた。圧倒的身体能力を誇る英斗より遥かに速い。英斗は、黒崎の言っていた高峰商会のエースがアリスだと確信する。
「ハハハ、どうじゃわしの速さは! 凄いだろう!」
と笑顔で走り回っている。
「へん! 速いだけじゃ鬼ごっこは勝てないことを教えてやる!」
と年の近い悠がアリスに宣戦布告をする。
「面白い……見せてもらおうか!」
と謎のバトルが始まった。
「アリスちゃん速すぎだよー!」
他の子供達はアリスの速さに驚いている。大の大人でも驚く速度だから仕方ないだろう。
「悠はどこじゃ。奴を捕まえてやろう!」
英斗にタッチされ鬼になったアリスは悠を探す。だが、悠はグラウンドから離れ建物の裏側に隠れていた。
「ううむ……。おらぬのう」
アリスはきょろきょろと周りを見渡すも、悠の姿は見当たらない。次第に不安そうな顔になるアリス。
仕方ないな……と英斗は少し手助けをすることにした。
英斗は悠の足元付近に花火を生み出す。大空に打ち上げ花火が舞い、悠の位置を知らせる。
「花火っ!?」
「なにかあるなー!」
アリスが花火に気付き、猛スピードでそちらに向かう。
「なんでこんなとこから花火が……!? ばれたか!」
悠は結局、百メートル走をしたら世界新記録を余裕で叩きだすであろうスピードで迫るアリスに捕獲された。
「うう……なんだったんだ……」
捕まって落ち込む悠。一方のアリスは満足気であった。
「ふふん、やはりわしが最強じゃ。けど、お主の頭脳プレーには恐れ入ったぞ」
アリスが悠に手を伸ばす。英斗はそんな頭脳プレーでもないだろ、という突っ込みが口から出かかったが、大人なので我慢した。
「アリスの速さには俺も負けたぜ。やるじゃねえか、アリス」
悠もその手を握る。悠とアリスの謎の友情が生まれていた。
「楽しかったか?」
「まあまあじゃ! また来てやっても良いぞ!」
尻尾が生えていれば、ぶんぶん振り回しそうなくらいの笑顔である。
「またおいで」
その後しばらく遊んだ後、アリスはご飯の時間だと言って帰っていった。





