荒久根ほむら
道を曲がった先では、背中から巨大な蜘蛛の脚を生やした美少女がその脚で男を釣り上げていた。釣りあげられている男は三十代で、頭に赤いバンダナを付けている。その男の取り巻きは、その異様な光景に腰を抜かしている。
男は三メートル以上地上から釣り上げられ気が動転しているのか、英斗達を見て大声を上げる。
「は、はやく、助けろ! このままじゃこの化物に殺される!」
「貴方が、華頂様の悪口を言うからですよ? 華頂様と敵対するということは、ほおずき会全体と敵対することと同義です。死にますか?」
背中から脚を生やしつつも、可愛らしくころころと笑う。軽くパーマのかかったショートカットの金髪に、大きな瞳、形の整った唇の美少女だが迫力がある。
「こっちは、高峰商会のもんだぞ! お、俺を殺したら全面戦争になるぞ!」
男は怯えつつも叫ぶ。
「ほむら、ここで殺ったら本当に全面戦争だ。華頂さんもそれは望まれていない」
玉閃が止める。
「……仕方ないですね。華頂様の悲しむ顔は見たくないですから」
そう言って、男を地上に下ろす。下ろすというより、投げ捨てるに近かったが。
「幹部達はみな化物ってのは本当だ。早く逃げましょう」
「くそがっ! 必ず復讐してやるからな!」
バンダナ男は取り巻きの男達に連れられ、悪態をつくとすぐさま逃亡していった。
男達が消えていった後、玉閃が呆れたように言う。
「少しはおとなしくしてくれ」
「私が華頂様を馬鹿にされ、おとなしくしていると思いますか? 殺さなかっただけ、褒めて欲しいくらいです」
ほむらは堂々と言う。
「確かにそうか。月城さん達こいつが、荒久根ほむら。俺と同じ戦闘部門だが、彼女がトップだ」
玉閃がほむらを紹介する。
「貴方達が東のタワー踏破者ね。この軽薄な男が幹部の、戦闘部門に居るわ。華頂様に逆らう者を殲滅するために日夜、戦っているの」
「こんにちは、高峰有希よ。どうやら華頂さんはとても好かれているようね」
「そうなのよ! とっても優しいの~! 私が困っているときはいつも助けてくれるし、そのお言葉は私達の行く先を示してくれるの! 聞いておけば間違いない、っていう説得力もあるし! 文明崩壊後に、困っていた時もね――」
さりげない有希の言葉に、マシンガントークを繰り広げるほむら。
「長いから聞き流してくれ。いつもこうなんだ。ほむらは華頂さんと一緒にここに来ててな。ほおずき会でも最古参なのさ。ほら、もう帰るぞ」
「もうっ! まだ話し足りないのに! また今度華頂様のすばらしさをもっと語ってあげるわぁ。バイバイ~」
玉閃とほむらは、別れの挨拶をして去っていった。
「なんだったのかしら……」
「分からんが、もしかしてよそ者の俺達を見定めにきたのかもな」
英斗達も児童園に戻る。
「おかえりなさい。先ほど玉閃さん達がお二人を探していたけど、もうお会いになりましたか?」
黒崎が、子供の服を畳みながら尋ねる。
「ああ、会いましたよ。あの二人はここでは有名なのですか?」
「そりゃあもう。タワー踏破をされたお二人ですから。あの二人が戦いではほおずき会のツートップです」
英斗の疑問に、弾むような声で応える。
「確かに、二人とも強そうですね。商会にもあの二人くらい強い方がいらっしゃるんですか?」
「う~ん、私は戦わないのでそこまで詳しくなんですが、商会ではまだ十歳くらいの、ある子供がとっても強いというのは聞きますねえ。恭一郎さんも戦えるらしいですよ」
「そんな子供まで戦っているんですね……」
英斗はその現状に溜息を吐いた。
「うちはそんなことはなんですけどねえ。ご飯にしましょう! しばらくお二人とも名古屋にいらっしゃるんですよね? それなら、いっぱい子供達と遊んであげてください!」
黒崎が笑顔で言う。
「「ありがとうございます」」
英斗達は頭を下げた。





