玉閃という男
ビルから出た後、有希はおぼろげな足取りでふらふらと町を徘徊する。
「おい、大丈夫か?」
英斗は下を向いて歩く有希を見て、心配そうに声をかける。英斗はなかなか戻ってこない有希を心配して、付近を捜索していた。
「大丈夫よ、ありがとう」
小さい声で呟く。それを見た英斗は無言で、ナナの小型ぬいぐるみを生み出す。手のひらサイズの小さなぬいぐるみである。
「暗い顔した君にプレゼントだ」
それを見た有希は噴き出すように笑う。
「なんで、ナナちゃんのぬいぐるみなのよ! 可愛いけど」
「なんでって……有希もナナ好きだろ?」
「好きだけど。ぬいぐるみまで作るなんて、本当親ばかね」
有希は、くすくすと笑いながらもぬいぐるみを受け取り、大事そうに抱きしめた。
「貰っといてあげるわ」
言葉ではそう言いながらも、口元は微笑んでいた。
「恭一郎が接近してきたのか?」
「そう……。魔法具の情報が欲しければ、ほおずき会を潰せって言われたわ」
「そんなこと……できる訳が無いだろう!」
英斗は少し、怒りが混じったような声で言う。
「もちろんそうよ。他に知ってそうな人を当たった方がいいかもね」
「最悪そうなるかもな。全く他にあてはないが」
話し終えた英斗達が、児童園に戻ろうと歩いていると、前方から両手に美女を侍らせた若い男がこちらに歩いてくる。
「よぉ~! あんた達が東京から来た奴らだな。聞いてるぜ」
若い男は、美女達に軽く別れの挨拶をし、送り出す。
「バイバイ、たまちゃん! また遊んでね~!」
美女たちは、手を振って消えていった。それを見て、顔を顰める有希。
「何か用かしら?」
「なんだよ、冷たい態度じゃねえか。可愛い顔が台無しだぜ?」
冷たい有希の態度にめげることも無く、軽口を叩く。二十前半くらいで、髪はオールバッグにしており、一房だけ髪を下ろしている。顔は整っているが、どこか軽薄さを感じさせる。
「俺はほおずき会の者だ。うちの児童園の子供達が世話になってるらしいから挨拶にきただけだ。櫛灘玉閃という。皆玉閃と呼ぶからそう呼んでくれ。よろしく」
「ああ。ほおずき会の方か。月城英斗という。こちらこそよろしく」
英斗の後に、有希も軽く挨拶をする。
「ほおずき会は大きいが戦闘員は少なくてな。俺は戦闘部門さ。一緒にもう一人連れて来てたんだが、どこかはぐれたみたいだ。後でまた紹介する」
それはお前が女を侍らせてたからだろ、と有希が冷たい目線を向ける。
「ほおずき会は五千人もいると聞いてますが、戦闘員は何人程?」
「千人いるか、って感じだ。俺なんて、こんな大きな会のトップならもてるだろう、と思って入っただけだけどな」
「効果はあったみたいだな」
先ほど美女を見ていた故の台詞である。
「そうなんだよ! ほおずき会様々ってやつだ。俺は優秀だから、すぐにほおずき会でもトップクラスさ」
「あんたそんな優秀なの?」
有希が素朴な疑問を口にする。
「おいおい、これでも崩壊前はエリートだったんだぜ? あんた達と同じく、ダンジョンタワーを踏破したメンバーって言えば分かるか?」
軽薄な口調で言う。こちらの素性が漏れている?と感じた英斗は少しだけ警戒心を高める。
「新聞か?」
「そうだ。東京ダンジョンタワーを踏破したメンバーはこちらでも有名だ。リーダーの『創造者』月城英斗。そして、『戦姫』高峰有希、『狂戦士』伽藍獅堂。あと一人居たらしいが……まあそれはいい。俺達が踏破したのは大阪ダンジョンタワーさ。ほおずき会がここまで大きくなったのは、ダンジョンタワーを踏破したという知名度からだ」
「ほおずき会のパーティだけで、大阪のダンジョンタワーを踏破したのか?」
「……そうさ。まあ、こちらが大きくなってしまったせいで商会側との仲も悪くなったから、良いことばかりでは無いんだがな」
玉閃はやれやれと、首を竦める。
「放せえ! 化物女がァ!」
突然、近くで男の野太い叫び声が上がる。それを聞き、玉閃が頭を抱える。
「あいつ……おとなしくしてろって言ったのに……!」
玉閃が声の方向に走り始める。それを見た英斗達は顔を合わせるとそのまま後を追った。





