NEW GUILD MASTER
翌日英斗達は、二十三区に入ったところで一度別れた。港区に実家はあるようで、各自自らの区で積もる話もあるだろうということで、各自東京タワー集合になった。
英斗にとっては久しぶりの杉並区である。今までも荒れてはいたが、度重なる魔物の襲撃でどこも廃墟の様に崩れていた。ギルド本部はなんとか形を保っているものの、壁にはひびが入っている。
「月城さん! よくぞご無事で! 聞きましたよ、タワーを踏破されたようで!」
中に入った英斗を見るや、事務長の花田が大声で出迎えてくれた。それを聞き、中に残っていた者も英斗に気付き、皆感謝の声を上げる。
「月城さん、助かりました……! あれ以上は持ちませんでしたよ……」
傷だらけで鎧を纏った女性が英斗の手を掴み、泣きそうな顔で感謝の意を述べる。どうやら既に英斗達が踏破したことは広まっているようだ。
どうやら中々の激戦だったことが、皆のぼろぼろの様子からも伺える。ぎりぎりだったみたいだ。
「なんとか間に合ってよかったです」
すると、ギルドの裏側から弦一が顔を出す。英斗の姿を見て、目を輝かせた。
「おめでとうございます! 信じてましたよ、アニキならきっと踏破できると。だから、俺達はそれを支えに今まで必死で守り切ることができました」
「俺も弦一ならきっとここを守り切ってくれると信じていたよ。大変だっただろう。お疲れ様」
そのねぎらいの言葉に、弦一は照れながら頬を掻く。
「いえいえ、踏破は本当に大変だったそうで」
「ああ……。本当に、大変だった」
「中でゆっくり話しましょう」
英斗の疲れた顔を見て、弦一が提案する。英斗は頷き、二階の個室に移動した。
「弦一、実はお前に頼みたいことがある」
英斗はソファに座ると、すぐさま話を切り出す。
「なんですか?」
「実は、俺は杉並ギルドマスターを辞めようと考えている。やりたいことができたんだ」
「聞かせてください」
英斗の真剣な顔を見て、本気の話だと察した弦一は続きを促した。
「俺はこの世界を、崩壊前の平和な世界に戻したい。そのために、魔物の転移を止める魔法具を探す旅に出るつもりだ。おそらく長くなるし、命の保証も全くない。だから、お前に後任を任せたい」
「……流石アニキ、話のスケールが想像の何倍もでかいっすね! 本当は止めたいですけど……そんな大義を背負った男を止められる訳がないですよ。ここは気にせず、世界救ってきちゃってください!」
胸をドンと叩いて、弦一が言う。
「お前に色々押し付けてばかりで済まねえな」
「いやいや。元々押し付けたの俺達ですから。気にせずに好きなことしていいんですよ」
申し訳なさそうに謝る英斗の肩を優しく叩く。
「あのスタンピードを守り切ったお前なら、安心して任せられる。後は頼んだ」
「了解です! 何かあったらいつでも戻ってきてください。皆待ってますよ」
その後英斗は、知り合い皆にマスターを辞することを伝えた。皆一様に悲しむも、英斗の新たな目標を聞き応援の言葉を伝えた。
『皆いい人だったねえ』
一通り挨拶回りを終え、夜風に当たっていた英斗にナナが言う。満月が綺麗に英斗達を照らしている。
「ああ。あまり役に立たないギルドマスターだっただろうに、優しかったよ」
そう笑うと英斗は立ち上がる。英斗はそのまま杉並区を旅立ち、港区に向かった。別れは悲しいものではあるが、やることは山積みである。こんな世界だからこそ帰る場所があることは嬉しかった。次の旅はいつ終わるのか想像もつかないが、また杉並区に戻ってきたいと思えるくらいには、この故郷が好きになっていた。





