Different World Technology Project
英斗達はダンジョンタワーに戻っていた。今まで世話になった博士にこの顛末を伝えるためだ。
タワー前の広場はいつもより盛り上がっており、人だかりができていた。英斗は、博士のぼさぼさ頭を探す。博士は広場から少し離れた所でぼんやりと座っていた。
「博士、終わりました」
英斗は博士に声をかける。
「英斗君……。おめでとう……そしてお疲れ様」
博士は英斗の疲れ、少し腫れた目元を見て静かに抱きしめる。
「ありがとうございます。無事に使命は果たしました。失ったものは大きかったですけど……」
「そうだろうな。君の顔ですぐに察したよ。けど、彼は……仇は取れたんだろう?」
「はい。遊馬が居なければ絶対に勝てませんでした。遊馬のお陰で……まだ死ぬべきような奴じゃなかった!」
英斗は話しているうちに、内側から感情が溢れてきた。仲間を犠牲にしないと勝てない自分の不甲斐なさ、全てが情けなかった。
「だが、彼のお陰で僕も、ここに居る皆も生きている。それどころか、付近一帯を救った英雄さ」
「はい。遊馬は英雄でした……。最後まで、死ぬ直前まで……良い奴でした」
「だから、あまり気に病まないことだ。英雄の顔がこんなに曇っていたら皆も心配するだろう?」
博士は両の指で、自分の頬を上げる。
「そうですね……博士少し相談があるんです」
「なんだい?」
「実は、俺は昔の魔物の居ない平和な世界をもう一度取り戻そうと考えています。そのため、魔物をこちらの世界に転移させている魔法具を探そうと思っているんですが、方法がさっぱりで。何か知恵を頂けないかと」
「なんと……」
博士は一瞬だけ驚いた様子を見せるもすぐさま冷静さを取り戻す。
「まさか……そんなことを考えているとは。流石、昇さんや、初音さんのお子さんだ」
だが、その名を聞いた英斗は、目を見開いた。
「博士……なぜ貴方が父さんと、母さんの名前を知っているんですか!?」
その名は、英斗の父と母の名前であった。
「……少し昔話をしようか。今から十五年前、僕はある会社で新人の研究者として働いていた。そこに居たのが、当時上司である昇さんや初音さんだ。よく君の話を聞かされたよ。自転車に乗れるようになった、俺に似てとっても賢いんだ! と子供のような笑顔で私に語っていた」
と当時を懐かしむかのように笑う。
「仕事のせいで、あまり君との時間を作れないことを申し訳なく思っているともいつも言っていたよ。少し話が逸れたが……僕と昇さん、初音さんは会社で魔物が残した痕跡を探す研究をしていたのさ。世界がこんなことになる前から、この世のものではない何かの痕跡はあらゆるところに残っていたんだ」
「そんな昔から……魔物は居たんですか!?」
英斗は既に驚き疲れていた。
「当時は、はっきりと魔物を観測できていたわけじゃ無いんだけどね。エイリアンや、雪男、各地に妖怪の目撃情報や痕跡は昔からあっただろう? そのような痕跡を追っていたんだ。段々、痕跡も増えていたし、ゴブリンの骨も見つかった。明らかにこの世界の生き物じゃないことから君のお父さん達は上に、国や世界にこの情報を伝えて対策を取ること提案したんだ。だが、上の者はそれをはねのけた!」
「情報を独占しようとしたんですか?」
「そうだ。この世界の物ではない技術を独占し、さらに成り上がろうと考えたんだ。兵器としての軍事転用も考えていた。愚かなことにね……。だが、昇さん達はこれからの世界のために、情報を公開しようとしたんだ。そして、それを気付かれて消されてしまった……。これを君に伝えるかは悩んだが、君には知る権利があるだろう」
英斗はそれを聞き顔が固まった。口元を震わせ、目には怒りが宿っている。拳を強く握り、震えていた。
『英斗……』
心配そうにナナが声をかける。
「……大丈夫だ、ナナ。ありがとう。もう昔のことだ……」
平坦な声で言うものの、顔は怒りで溢れている。
「慰めになるかは分からないが、当時その殺人に関わった者は皆既に魔物に喰われ殺されているよ」
「そうですか、残念です……。仇を取ることもできませんか」
冷酷な声で言う。
「すまないが、それを目前で見た僕は、自分が研究を辞めて告発しても殺されるだけだと思ってね。ただ従い情報を集めることを決めたんだ。いつか来るべき時に備えてね。それが今日だと僕は思っているよ。僕の役目は、昇さんと、初音さんの意志を君に伝え、君の大義を手伝うことだと思っている!」
博士は、英斗の両肩を掴み、その黒い瞳で、英斗を見据えている。
「君の父母は本当に、本当に立派な方だった! 君や未来のことを考え、世界を救うために全力を尽くしていた!」
「ありがとうございます。父の、母の意志はしっかりと俺が受け継ぎます。また平和な世界を取り戻して見せますから」
英斗は堂々と、言い放つ。それは覚悟を決めた男の顔であった。
「いい顔だ。魔法具についてだが……知っている可能性のある者に心当たりがある」
「本当ですか!」
英斗はその情報に驚く。まさか本当に知っているとは思っていなかったからだ。
「ああ。当時系列の会社が、魔物を呼び寄せる何かについて調べていた。噂程度だが、それを突き止めたという話を聞いたことがある。その会社は、親会社のトップが特別に指揮をしていた。高峰財閥の会長、高峰恭一郎が!」
「う、嘘ッ!?」
とっさに出た言葉を自ら驚きつつ、口元を手で覆う高峰。まさか、自分の親がこんな規模の話に関わって来るとは思っても居なかったのだろう。
「彼なら知っているはずだ。この異世界からの魔物、道具を専門に研究している計画はDifferent World Technology Project。通称DWTプロジェクトと言われていた。きっと彼に聞けば分かるだろう」
「分かりました。貴重な情報をありがとうございます。恭一郎さんを当たってみようと思いますが……どこにいるのか」
あえて、生きているのかという言葉は使わなかった。高峰に気を使ったのだ。
「あいつは殺しても死ぬような奴じゃないわ。どこにいるのか私も知らないけど……実家に誰か残っているなら、崩壊前どこに居たかくらいは分かるかもしれないけど」
心底不快そうに言う。
「高峰、実家の場所を教えてくれないか? 情報が他に何もないんだ」
「私も行くわ。まさか文明崩壊を自分の父が予期していたなんて……。ちっとも知らされてなかったわ。文句の一つも言いたいし」
「……そうか。じゃあ案内を頼むよ」
「いくのかい?」
「はい。また少し旅に出ます。また会いましょう」
英斗は博士と握手を交わした後、ダンジョンタワーから旅立った。





