何はともあれ、やっぱり食料って大事だよね
「これは酷いな」
英斗はマンションを出てスーパーに向かっていたが、すでに外は地獄であった。
いたるところで人が死んでいた。
ゴブリンだらけなのもあるが、謎の狼や二足歩行の槍を持った豚、おそらくオークが我が物顔で闊歩していた。
地震当時車に乗っていた人はパニックになっていたのか、車同士でぶつかっていたり、建物に突っ込んでいた。
英斗は物陰をこそこそと隠れながら少しずつ進んでいた。割と命がけの食料確保であった。
「ひ、ひい! 助けてくれぇ!」
英斗が声の先を見ると、老人がオークに捕まっていた。
英斗は自分の実力ではオークには勝てないだろうと、その場を立ち去ろうと考えた。
が、英斗の正義感が足を止め無意識に手に氷を生み出していた。直径8cmほどの氷である。 大きく振りかぶりオークに投げつけ言い放つ。
「よお、豚。俺の方が美味いぞ」
英斗の全力の投擲はオークになんのダメージも与えられていなかったが、気を引くことには成功したようだ。
オークは老人を投げ捨てると、英斗めがけて走り始めた。
英斗もその動きをみた瞬間全力で走り始める。
「ああ、俺って本当馬鹿だ」
英斗は自己嫌悪しながら走り続ける。 途中、地面に落ちている石を見つけ、手に石を生み出す。
「やっぱ、単純な物なら生み出せるんだな」
英斗は石をオークめがけて投げ放つ。石はオークに当たらず明後日の方向へ飛んでいった。
10分ほどオークと命がけの鬼ごっこを行い、オークを撒くことに成功した。
「ああ……もう二度としたくねえ」
ひいひい言いながら倒れこむ。 スーパー方向に逃げたこともあり、大分スーパーには近づいた。
スーパー前に向かうと、そこにはもめている人達の姿があった。
「てめえ、このスーパーの商品は全部俺達の物なんだよ、とっとと失せろや殺すぞ!」
スーパーの正面入り口にはガタイのいいチンピラ達が仁王立ちしており、社会人らしき男と口論をしていた。
「別にここは君の持ち物じゃないだろう? お金ならちゃんと払う。あんまり揉めるなら警察を呼ぶぞ!」
「はっ? 警察? こんな状況になってんのに警察がまだ助けてくれると思ってんのかよ、ずいぶんおめでてえんだな。化物だらけなのによお。今は俺たちみたいな強い奴が正義なんだよ!」
そう言って、ガタイのいいチンピラのリーダー格らしき男が巨大な斧を生み出した。
「ひい!」
「俺のスキルは『戦斧』。この力がありゃあ化物も怖くねえ」
チンピラが斧を社会人の男の近くに振り下ろすと、男は悲鳴をあげて逃げ去った。
「あのチンピラもスキルもってるのか」
他のチンピラ達もどうやらスキルを持っているようだ。 英斗はスーパーの裏から侵入しようと、チンピラが話している間に裏側に回る。
すると既に先客がいたのか、裏のガラスが割れていた。
「お、ラッキー?」
そう言いながら英斗はガラス窓から侵入し、非常食を入るだけリュックに詰める。
「水も念のため少しだけ貰っておくか」
英斗は水をペットボトル1.5L2本だけリュックに追加する。
「とりあえず、あいつらに見つかる前に帰ろ」
そう言って、代金として1万円札を机に置いた後、窓に足をかけるとチンピラと目が合う。
無言の緊張を破ったのは英斗だった。
「あ、こんにちは」
「誰だてめえ」
チンピラは手からナイフを取り出す。 英斗は外に飛び出し、一目散に逃げだす。
「待てやコラア! てめえ絶対殺すぞ!」
後ろからチンピラの叫び声が聞こえる。
英斗はチンピラやゴブリンなど化物にも追われながら、自室へ逃げ戻った。
「ふう、今日はずっと人に追われてるな」
英斗は部屋に戻ると大の字で倒れこむ。
「今日一日だけで何回命の危険を感じたか……。今後どうするかなあ」
今この瞬間にドアが破壊されオークに殺される可能性がある、そう思うと戦闘力の上昇が急務であった。
英斗は自衛隊や警察が助けてくれるとは微塵も考えていなかった。こんな化物達に現代兵器が通じるのだろうか?
「とりあえずスキルの研究と、力を上げるしかないな」
おそらくこの力にはレベルがある。ゴブリンを倒した時の力が漲る感覚。あれはレベルアップだったのではないのだろうか?
「ステータスみたいのがあるといいんだろうけど」
現実ではどうやらステータス表示はできないようであった。それどころか、自分の能力すら曖昧であった。
食料何か生み出せるかな?と考えた英斗は、家にあった食パンを見ながら、食パンをイメージする、だが、何も生まれることは無かった。
「これはレベルが足りないのかねえ」
英斗は、手に砂を生み出す。次は手に火をイメージする。すると、手からライターの火程度の火が灯る。
「うーん、どうやら実物を見ながらじゃなくても出すことは可能らしいな」
全力で火をだすが、直径三センチほどの火が限界のようだ。
「これでどうやってオーク倒せっていうんだ。仕方ない、ゴブリン狩りとしゃれこみますか」
英斗は包丁を持ち、家に元々あったパンを齧り残りの非常食は隠しておく。泥棒されては洒落にならないからだ。 英斗は下に降り、一匹で行動しているゴブリンを探し、後ろから近づく。
慎重に近づき、頭に包丁を突き刺す。
「ギィ」
ゴブリンは小さな悲鳴と共に、絶命する。再び、小石を落とす。
「まるでアサシンだな」
英斗はそう自嘲する。子供の自分なら真っ向勝負で剣で戦っていただろう。現実は包丁である。
「ま、俺は勇者にはなれなかったってことで」
そう呟くと新たなゴブリンを探す。