俺の全てを燃やしてでも
遊馬は残りの全魔力を使って、硬化と重化を行う。その重さは10tを越える。
そのかつてない重さとなった遊馬がイフリートの動きを全身を使い、封じていた。
「なんとか……止めてやったぜ……。英斗、俺ごとあの技を……!」
遊馬の目は死にかけでも、しっかりイフリートを見据えていた。
「そ、そんなこと……できる訳が無いだろ! はやくその腕を抜いて……今ならまだ――」
英斗は震える声で言う。仲間ごと、遊馬ごとイフリートに攻撃することなどできるはずがない。
「俺はもう助からん……お前も分かっているだろ? 無駄死にに……させないでくれ。俺に……エクセリアの仇を取らせてくれ……頼む!」
「で、でき――」
「英斗!」
遊馬はその目で英斗を見つめる。それは覚悟の決まった男の、命をかけて仇を取る男の目であった。
「ああ……遊……馬」
英斗の目から涙が流れる。そして、英斗は新必殺技を放つためホルミスの指輪から魔力を受け、創造し始める。
イフリートはそのやりとりを見て、危機を感じ全力で腕を抜くよう試みる。だが、腕が抜ける様子は全くない。
『に、人間無勢が……なぜ抜けん!?』
イフリートは動揺を隠せなかった。
「俺の命に賭けても、絶対に逃がさねえよ……。お、俺の命を……すべてを燃やしてでも。人間を……舐めるなよ!」
遊馬はその目でイフリートを見据える。
遊馬の鬼気迫る態度に、イフリートは生まれて初めて得も言われぬ恐怖を感じた。
『は、放せェ! 人間がア!』
イフリートは遊馬を貫いている腕を渾身の炎で燃やす。
「ぐううぅ! は、放さんぞ……絶対にな!」
遊馬はイフリートの火焔に焼かれ、全身が黒く変わっていく。だが、決してその腕は動かない。
『こうなったら!』
イフリートはもう一方の腕で遊馬に捕まっている自らの腕を切断しようする。
だが、それを見過ごす伽藍ではない。
「男の覚悟を……邪魔するもんじゃあ、ねえぜ?」
伽藍の振り下ろした大剣が、爪を弾く。
『邪魔ばかりしおってェ!』
イフリートが苛ついたような声を上げる。伽藍はその後すぐにイフリートから離れ始める。30秒が近いからである。
伽藍のその行動に危険が迫っていることを感じたイフリートが叫ぶ。
『放せええええ!』
イフリートが全力の熱線を放とうと口を開く。だが、その顔に伽藍の大剣が命中する。
「往生際が悪いぜ」
伽藍が愛剣を投擲し、顔に叩き込んだのだ。
「ありがとな、伽藍……そして英斗も。英斗には……嫌な役目を押し付けちまった。すまねえな」
遊馬は、もう死にかけであった。だが、2人を見て、にっこりとほほ笑む。
「もう一度平和な世界で……ゆっくりとコーヒーを飲みたかったな……」
そう小さく呟いた。
「遊馬……!」
英斗は涙を流し、遊馬を見つめている。そして30秒が経過する。
「うああああああああああ! 『超新星爆発』」
英斗の叫びと共に、イフリートのすぐそばに、直径3m程の惑星が生み出される。そして次の瞬間、閃光とともに、中心部が崩壊し大爆発が起こった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!」
イフリートの叫び声が空間に響き渡る。
その威力は凄まじく、遠く離れていた英斗と伽藍が爆風で吹き飛ばされるほどである。
辺りは全て爆風で埋め尽くされる。爆風が晴れた頃、そこには何一つ残っていなかった。