必ず救う
イフリートの巨大な爪は完全に高峰の体を貫通し、高峰はぴくりとも動かない。
「おい、ありゃまずいぞ! 英斗!」
伽藍が大声で叫ぶ。
「分かってる!」
英斗は翼を背に生み出すと、高峰の元へ全速力で飛ぶ。
『小娘が調子に乗るからよ……』
イフリートは爪を抜くと、高峰目掛け熱線を放とうと口を開ける。
「狂黒撃!」
伽藍は思いっきり跳ぶと、イフリートの顔に横薙ぎを打ち込む。それにより、熱線が別方向に逸れる。
地面に落ちる高峰を英斗は受け止めると、そのまま距離を取る。
「俺達が時間を稼ぐ! 高峰を!」
遊馬が魔力を盾に込めると、イフリートに突進する。スキルにより凄まじい重さを持つ遊馬と突進に、イフリートが大きく後退させられる。
『愚か者共が……あの小娘はもう長くない。あれは致命傷よ』
「うるせえ! お前の相手は俺達だ!」
伽藍が魔力を全身に込め、攻撃を行う。
一方英斗は、距離をとり、地面に高峰を寝かせる。英斗と両腕も、地面も血で真っ赤に染まっている。
顔は真っ青で、ぴくりとも動かない。レベルが高いため死んではいないものの、明らかに致命傷であった。腹部に穴が空いておりそこから地面が見えている。英斗はマジックバッグから赤ポーションを取り出しかけるも、大した治癒効果は無い。
「これは……まずい。本当にまずい。俺の力じゃここまでの大怪我の治療は不可能だ。ポーションじゃ、延命にしかならない。やっぱり俺達程度でイフリートに勝つなんて無理だった……のか?」
英斗は絶望し、目の前が真っ暗になり、手は震えていた。
「なに……してんのよ……月城。まだ……勝負は終わってないでしょ?」
英斗は驚いて高峰の顔を見ると、高峰が虚ろな目で英斗を見つめている。
「高峰! もう喋るな! すぐに治療してやるから!」
「馬鹿ね……。自分の怪我がどれくらいかぐらい……分かるわよ」
「赤ポーションは何十個もある! だから……」
「行きなさい……英斗。2人も抜けると戦列が崩れるわ……ここで私達が負けたら……皆が死ぬ。だから……」
「絶対に死なせねえ! 何か……」
英斗は何か手がないか考える。高峰を救う何かを。
「そうだ! 高峰、必ずイフリートを討伐して神樹のしずくを手に入れる。だから……死ぬな!」
英斗はこの扉のすぐ先にある自動販売機を思い出した。神樹の雫は、死んでいない限りあらゆる怪我を治すアイテムである。だが、英斗達のDCは全員合わせても9万程度。10万に達していない。
「ふふ……期待せずに待ってるわ」
そう言って笑うと、高峰は再び気を失う。まだ、死んではいない。だが、明らかに長くなかった。
「高峰……! くそっ、自動人形!」
英斗は自動人形を生み出すと、高峰にポーションを与え続けるよう命じる。
「イフリートを仕留めた際のDCを足したら届く……はずだ」
高峰を見捨てて逃げることなどできる訳もない。ならば、全力でイフリートを討伐するしかない。
英斗は皆の元へ急いだ。
「おい、高峰は大丈夫だったか!?」
「……かなり厳しい。このままじゃ長くない」
伽藍の叫びに、英斗が答える。
「ちっ!」
「だが、自動販売機に神樹の雫がある! あれさえ手に入れば!」
英斗の言葉で、2人は一瞬で理解する。イフリート討伐報酬のDCがあれば10万DCに届くかもしれないと。
「勝てばいい訳だ! なら最初とやることは変わってねえな!」
遊馬はそう言って、その剣を振るいイフリートを斬り裂く。
『3人でいつまでもつかな?』
片目を失っても、イフリートは堂々とその牙を、爪を振るっていた。
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