龍の逆鱗
英斗達の激闘は既に15分に及んでいた。イフリート相手に15分持っていることを褒めるべきであろう。
英斗達が善戦できている大きな要因は高峰にあった。
空中でイフリートの気を逸らしつつも、しっかりイフリートにもダメージを与えていた。そしてなにより、空中では遊馬が庇うことなどできない。高峰は一撃で致命傷になることを知りながらも、必死で空中戦を行っていた。
イフリートが、その両腕を自由に振るい、口から高峰を狙い熱線を放つ。それを器用に全て躱しつつ、距離をとった。
死に直結する攻撃を躱しつつも、必死でその槍を振るっている。
「くらいなさい!」
放たれたグングニルが再び翼を貫く。少しずつだが、翼にダメージは入っていた。
「泥人形!」
英斗はイフリートと並ぶ巨大なゴーレムを生み出す。全長20m程の超硬合金製の特製ゴーレムである。
人型を模した巨大ゴーレムがその拳をイフリートに向けて放つ。イフリートはその拳に真っ向からその爪で対抗する。
拳と爪が大きくぶつかり合い、轟音が響く。ゴーレムの腕が斬り裂かれたものの、イフリートの手の鱗も罅割れていた。
ゴーレムはすかさずもう一本の腕で襲い掛かる。だが、イフリートは口から熱線をゴーレムの胴体に放った。
その一閃は胴体を完全に貫き、ゴーレムは完全に崩れ落ちる。
熱線を放つ隙を狙い、伽藍は右脚を再度斬り裂く。鮮血が辺りに飛び散った。苛つきを見せたイフリートが近くの伽藍に爪で襲い掛かる。
「まずい!」
遊馬とは少し距離があり、危険を感じた英斗が伽藍の目の前に超硬合金の壁を三重に生み出す。
壁は全て一撃で粉砕され、伽藍にその攻撃が届く。伽藍はその大剣で爪の一撃を受け止めるも何十mも吹き飛ばされた。
だが、伽藍はすぐさま綺麗に着地を決めると、ポーションを先ほどの一撃でひびの入った肋骨にかける。
「お前ら、俺は効いちゃいねえ! 引くな!」
伽藍は叫ぶ。効いてないはずはないのだが、英斗の壁のお陰で威力も減退していたようだ。
「良かった」
英斗は呟きながら、周囲を見渡す。やはりこのままでは決め手にかけると感じた英斗はなんとかして新技を当てることを考える。だが、一日に一度しか放てない以上慎重にならざるを得なかった。
高峰はこのまま翼を狙っているだけでは、イフリートを倒す事は難しいと感じていた。高峰は英斗に目配せを送り、なんとか動きを止めるように伝える。
英斗は頷くと、手を地面に当てる。
「神の両腕」
イフリート付近の地面から、二つの巨大な鉄の腕が生まれ、両脚を捕まえる。
『小癪な!』
イフリートは口を開け、熱線を放とうとする。だが、全長2mを越えるミサイルがその口目掛けて放たれていた。
イフリートの口元が大きく爆発する。それにより熱線が大きく逸れ天井を破壊する。
「ナイスよ!」
動きの止まったイフリートの頭部目掛けてグングニルが放たれる。
グングニルは弾丸のようにイフリートの左目を貫いた。
『グアアアアア!』
イフリートが大きな悲鳴を上げる。
「仕留めたか!?」
だが、英斗の願いも空しく、大怪我を負わせたもののそこまで深く刺さっておらず致命傷ではないようだ。
「この……小娘ガアア!」
イフリートの顔は憤怒に溢れており、英斗の生み出した両腕を一瞬で爪で砕くと高峰目掛けて飛び掛かる。
その両腕により振るわれる攻撃はさながら天災のようであった。高峰はイフリートの連続攻撃を巧みに躱す。
「まずい」
英斗は、ミサイルをイフリートの背中に放つも、イフリートは高峰のみを見据えていた。背中に着弾し爆発が起こるも、気にもせずに高峰を狙う。
そして遂に、その爪が高峰の左の翼を捥いた。
「あっ」
高峰がバランスを崩した瞬間、イフリートの爪が高峰を襲う。その巨大な爪は鎧を砕き、腹部を貫いた。完全に貫通しており、背中から巨大な爪が覗いている。
「高峰ーーーー!」
英斗はその凄惨な光景に叫ぶも、高峰からの返事はなかった。