再びドラゴンスレイヤーに
次の日、英斗は早朝から起床した。エリア全体が暑いこともありゆっくり休めなかったのだ。
家を出ると、既に高峰も起きており槍を振るっている。
「あら、起きたの?」
「ああ。目覚めが悪かったみたいだ」
「仕方ないわね。今どんな気持ち? 私達が勝てるかどうかで、関東近辺の皆の命運が決まるのよ」
「うーん、あまり考えたことは無いな。結局身近な人のために戦うだけだし。皆の命って言ってもピンとこない。考えたくないのかもしれない。背負いすぎると、余計なことも考えてしまうだろう?」
英斗は努めて考えないようにしていた。
「そう。私は少し緊張してるかも。中央区の皆には生きて欲しいから」
「俺も杉並区の皆には生きて欲しいさ。伽藍もきっと一緒だと思うぞ」
「そうね。今日は全力を尽くしましょう」
そう言って、高峰は槍を消す。他の皆も起きてきたようだ。
「なんだあ、お前ら。朝早ええな」
伽藍が頭を掻きながら、家から出てくる。
「緊張してるのさ。朝食を食べたら行こうか」
英斗達は、部屋で朝食を食べる。皆、食欲が無いのか最低限しか食べていない。口を開かず食べる音だけが部屋に響いていた。
朝食後扉の前に集まると、英斗は扉に手をあてる。
「まだ時間はある。もし厳しかったら、一度この扉から逃げよう。じゃあ、行こうか」
イフリートなら追ってくる可能性が高いかもな、と思いつつ扉を開け、英斗達は中へ入っていった。
中はとても広く、ただ岩で固められた壁の中、野球場くらいの大きさがあった。天井も高く、イフリートも自由に飛べるだろう。
周りは岩だけで無骨な雰囲気を感じさせるも、白い岩で埋められている壁からはどこか神々しさを感じさせる。
そしてこの空間の支配者とも言えるイフリートは中央に堂々と鎮座していた。
全身に炎を纏わせている巨大龍である。15mを越える巨体は、マグマを固めたような龍麟に覆われている。禍々しい2本の曲がった黒い角の生えた顔からは、鋭い眼光を覗かせていた。
イフリートはここに来客が来るとは思わなかったのか、少し驚いたような反応をとると、ゆっくりと体を上げる。
『お前たちは……この間無様に逃げた者達では無いか。なぜ運よく生き残ったのに、むざむざ殺されに来たのだ?』
イフリートは心底分からないと言った態度をとる。
「お前に復讐をするために来たんだよ!」
遊馬は怒りを抑えられなかったのか、大声で怒鳴る。
『復讐……か。愚かな。たかが人が我に勝とうと思いあがる事自体が間違いなのだ』
そう言うと体を起こし、大きく吠える。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!」
空間全体が震えている。英斗が周囲を見ると、皆頷き戦闘態勢を取る。
すると、イフリートの後ろから、巨大な炎を纏った蜥蜴『サラマンダー』が現れる。S級魔物である。
『あいつは私がやる。だから他の皆はあいつに集中して』
ナナがそう言って、サラマンダーの元に向かう。サラマンダーも自分はボスの露払いであることを自覚しているのか、ナナと共に、移動を始める。
「ナナ、頼んだぜ」
英斗がそう言うと、高峰は鋼の翼を広げ、空中に向かう。伽藍も大剣を構え、遊馬も盾と剣を構える。
「さあ、再びドラゴンスレイヤーになってやろうか」
英斗の言葉を共に、激突が始まる。