新必殺技
今日は個人訓練の日であり、各自様々な訓練を行っていた。英斗もイフリート用に必殺技を考えている。
「やっぱりブラックホールなんて現時点じゃ無理だ。隕石で倒すのは厳しいし、兵器か? だが、大自然にある凄い脅威を再現できないだろうか?」
英斗は何を生み出すべきか、自問自答する。
「凄まじい爆発……何か……火山の噴火? いやそれを生み出すのも無理だろうな。実際に本物と同レベルの物じゃなくてもいい。地球規模で考えてるから駄目なのか? もっと大きな視点で物を見ないと……これか!?」
英斗の脳内に突如ひらめきが起こる。
「これなら……あいつにも……」
英斗は、ある現象を思い浮かべる。今のレベルでは普通なら生み出せない。だが、リヴィスの首飾りを使えば……。
英斗は自分より40m程先の空間にそれを生み出すようイメージする。
「でき……るか……?」
英斗が創造し始めて、既に20秒以上経過している。負担がかなり大きいようで、全身から魔力が吸い上げられるような感覚を味わっている。そして創造から30秒が経過した瞬間、凄まじい爆発が発生した。
耳を劈くような爆音と共に、爆風が英斗の体を揺らす。爆発が発生したところは何一つ残っておらず、ただ巨大なクレーターだけが残っていた。
英斗は自らの生み出したその威力に苦笑いが漏れた。
「は、はは……できた……。実際の現象よりスケールはとてつもなく小さいだろう。簡易版ってとこか。だが、これならイフリートに一泡吹かせられるかもしれない」
英斗はそう言いながら、倒れ込む。やはりリヴィスの首飾りを使うと、体が動かなくなるようだ。
その爆音に驚いたのか、ナナがこちらに走ってくるのが見える。
『英斗、今の音何?』
「俺の新必殺技だ」
『よく分からないけど、すごそうだね。けど人騒がせ』
そう言って、ナナは英斗の頭を甘噛みする。
「す、すまん」
英斗はただ謝る事しかできなかった。
その夜の夕食は高峰の作ったサンドイッチである。現在食事は4人が順番に作っている。食材を生み出すのは英斗であるが。
「で、英斗。遂に新技ができたんだって?」
伽藍は一口でサンドイッチを食べきりながら尋ねる。
「遂にな。これならイフリートの奴も仕留められるはずだ」
「だが、それを生み出そうとしてから30秒もかかるそうじゃねえか。しかも場所も固定なんだろう?」
そこが大きな欠点である。現状英斗の新技はそこを爆発させる、と決めてから30秒ほどかかる上に、場所を途中で変更することができない。
イフリートを30秒間同じ所に留めないといけないのだ。
「そんなに、同じ場所に留めておくのは難しいだろうな。両脚を動けなくして、翼の使えなくしないといけないし」
遊馬もサンドイッチを口に入れながら言う。
「そこなんだよなあ。正直レベルが足りなくて、すぐに生み出せないんだ。レベル100を越えたら少しは幅が広がると思うんだけど」
「そんなに待ってる時間は無いわ。後2週間程で5回目のスタンピードが来る。それまでに仕留めないと。遊馬、頬にマヨネーズついてるわよ」
高峰がなにげなく指摘する。
「……すまん」
遊馬は少し考えるそぶりを見せた後、自ら頬についたマヨネーズを拭き取った。
「まあ、俺も高峰も間違いなく強くなってる。そんな技なくても俺があいつの首を斬り落としてやるよ!」
伽藍が豪快に笑う。
「早く終わらせて平和に戻って欲しいなあ。魔物も居ない、昔のような平和な世界に。こんな命がけの戦いなんてしなくていい、穏やかな日常に」
遊馬が呟くように言う。
「……ああ。そうだな」
「これが終わったら、浴びるように酒が飲みてえぜ! 確か9万DCもあっただろ。好きなだけ酒を飲めるな!」
「そんな無駄遣い許す訳ないでしょ」
皆タワーを踏破しても昔のようになるとは思ってはいない。だが、誰もそれを指摘しなかった。