現状
英斗達は1か月ひたすら36階以降で魔物を狩り続けた。その成果もあって英斗のレベルは71に、41階まで到達した。
英斗は個人訓練ではひたすらイフリートを倒せるような新技を生み出すため四苦八苦していたが、未だに生み出せていない。
「レベルが足りないのか、想像力が足りないのか……」
英斗はぼやく。おそらく両方だろう。リヴィスの首飾りを使い、自らのレベル以上の物を1日1度だけ生み出すことができるが、どれもイフリートを倒せるとは思えなかった。
「駄目だなあ。気持ち入れ替えるか。久しぶりに外に出よう」
「よっしゃあ! 久しぶりに居酒屋にでも行くか!」
英斗の言葉を、皆素直に喜んだ。1か月ひたすらこもり続けていたため仕方ないだろう。
英斗達が外にでると、既に午後七時を回っておりそこかしろに蝋燭が灯されており夜の店が営業していた。
「じゃあ俺は酒飲んでくるからよ」
そう言って、伽藍は飲み屋街に向かって消えていった。
他の皆も思い思いの場所に向かっていった。
「それにしても……人が少ないような」
英斗は夜なのに、今までより盛り上がっていないことが気になった。
英斗は屋台に向かい、おっちゃんから焼き鳥を買う。
「へい、まいど!」
「さらに人減ってない?」
その言葉におっちゃんは顔を曇らせつつも答えてくれる。
「……やっぱり人は減っちまってるよ。もう半分ほどまで減っちまった。ここまで減ると店仕舞するとこも出てくる。雷神達がやられたのもでかいが、その化物はどこの階にでるか分からねえんだろ? 襲われたら誰も勝てねえんじゃ、皆行きたくねえわな」
どうやら今残っているのは、皆のために動いている者か、命知らずのどちらかのようだ。
英斗は居酒屋に行く気にもならず、ただ外の休憩スペースの椅子に座り人の流れを見ていた。
何を生み出せば勝てるのか、英斗は考える。威力のあるものと言われても、核爆弾くらいしか思いつかない。だが、そんなもの生み出せるとは到底思えなかった。
「だが、それくらい威力のあるものをイメージした方が威力あるものが生み出せる気がする……。隕石を生み出せるんだから、ブラックホール? うーん、それは無理だし、俺まで吸い込まれそうだ……」
英斗はぶつぶつと言いながら、屋台で買った酒を呷る。
「なにぶつぶつ言ってんだ、英斗」
遊馬が声をかける。
「遊馬か、お疲れ様。いやー、必殺技を考えてるんだが何も思いつかなくてなあ。遊馬も飲む?」
英斗はそう言って、酒を見せる。
「いや、俺はコーヒーがいい」
「相変わらずコーヒー好きだな。インスタントコーヒーしかないぞ」
英斗はそう言って、コーヒーの粉を生み出して、コップにお湯を注ぐ。
「ほい」
「便利だねえ。うん、この苦さがいいんだ」
遊馬はにっこりと笑う。
「美味しいなら良かったよ」
「美味いんだが、コーヒーガチ勢の俺からするとやっぱり豆から挽きたいんだよなあ」
「そんなに変わるもんかね?」
「英斗は本当に美味しいコーヒーを飲んだことがないなあ? 俺が今度一から挽いた本物のコーヒーを飲ませてやろう」
「おお~! 楽しみにしてるよ、遊馬のコーヒー」
「おう、最高の一杯を飲ませてやる。話がそれたが、最近ずっと新技考えてるな」
「ああ。今は基礎を上げてる段階だが、それだけじゃあいつは厳しいと思うんだよ。あいつも仕留められるような大技がなくちゃな」
「英斗のスキルはなんでも生み出せるから、逆に難しいな。ミサイルとか、兵器じゃだめなのか?」
「普通のミサイルも今なら生み出せるとは思うが……効くと思うか?」
「うーん……怪しいな。あの化物に只のミサイルが効くとも思えん」
少し考えた後、遊馬が眉を顰めながら言った。
「想像次第でいくらでも強い兵器を生み出せそうで、やっぱりなんでも生み出せるわけじゃ無いからなあ」
「英斗が無理しなくても、俺達前衛があいつを仕留めてやるよ。今はパーティなんだからな。けど、こんな魔物ばかりの世界でずっと生き抜かないといけないのかねぇ」
遊馬が溜息を吐く。
「仕方ないだろう。これからはこれが日常だよ」
「強い奴はこれでいいかもしれないけどよ。やっぱり戦えない奴は、元の世界に戻りたいと思ってると思うんだよ……。俺もだけどさ。魔物の居ない穏やかな、平和な昔に戻りてえよ……。っと済まねえ、こんな時に変な弱気吐いちまってよ」
「いいさ。それを望む人も多いだろうからな。いつか元の世界がくるかもしれないし。そう悲観するな」
「そうだな……いつか」
遊馬と話していると、千代田ギルドマスターの妻夫木と博士が足早にやって来る。
「探したよ、月城君……」
博士が息を切らせながら言う。
「どうしたんですか?」
「君達が地上に戻っているうちに、最近の23区の状況を伝えておこうと思ってね」
妻夫木が言う。
「ありがとうございます」
「正直に言うと、かなりまずい状況だ」
それは中々聞きたくない言葉であった。