彗星のイグニール
英斗は、無言で木偶人形を5体生み出し向かわせる。一方、弦一は出力を上げ木偶人形ごと英斗を黒炎で襲う。木偶人形は全て黒炎に焼かれるとそのまま倒れこむ。
英斗は自分に飛んできた黒炎は土壁で防ぎ、鉄の棘を地面から生み出し再び弦一を狙うも弦一に再び躱される。
「木偶で大丈夫か?」
「盛り上がってきたぜえ!」
我羅照羅の観客たちから歓声があがる。
英斗は観客の声を無視し再び5体の木偶人形を生み出すと、5体は五方向に分かれ弦一に襲い掛かる。一方、弦一は放射状に黒炎を放つ。
英斗は、正面の木偶人形の前に土壁を生み出し防御する。他の4体の木偶人形は黒炎に燃やされえしまう。
土壁の上から守った残りの一体がくるのか?と弦一は予想していた。
すると、弦一の予想通り土壁の上から残り一体が現れる。弦一は残り一体にも黒炎をぶつけると、最後の一体も燃えてその場に倒れこむ。
「こんな壁で俺を止められると思うなよ」
弦一は土壁を蹴りで粉砕し英斗を探す。だが、どこにも英斗が居なかったのだ。
「総長、後ろ!」
部下の声を聞き、後ろを振り向くとそこには拳を振りかぶる、黒炎で燃え盛る木偶人形の姿があった。
木偶人形の右ストレートが弦一の頬に突き刺さる。そのまま弦一は数メートル吹き飛んだ。
燃え盛る木偶人形は弦一を追いかけ手を地面につける。するとそこから鉄の棘が生え弦一に襲い掛かる。その棘は弦一の右足を貫く。
同時に木偶人形が砕け、中から英斗が見える。英斗は、身に纏っていた木を操作し黒炎ごと木偶人形を捨て去る。
「コノヤロォ、自分を木偶人形に擬態するとは……こんな子供だましで俺に勝てると思われたら心外だぜ」
弦一は口元の血を拭うと、全身から黒炎が噴き出し弦一の頭上に禍々しい黒い太陽のような球体が生み出される。その大きさはどんどん膨らんでいき、直径6mほどはあろうかと思われた。
「お前ら逃げろ! 総長本気だ!」
他の構成員達が一目散にこの場から逃げ始める。どうやら弦一の必殺技のようだ。
「なら……俺も本気を出させてもらう」
英斗も多くの魔力をその生成に込める。
「巨大人型兵器」
英斗が生み出したのは全身10m超の巨大ロボットである。昔英斗が見ていたアニメ『彗星のイグニール』のロボットを簡易的に創造した。
実際の中身は巨大な木偶人形を全身鉄でコーティングしたものであるが。
「くらいな」
そう言うと、弦一は黒き太陽の如き大炎を英斗に向けて放つ。
英斗の生み出したイグニールはその黒炎を下から掬い上げるように拳を放つ。黒炎を貫いたイグニールが黒炎に包まれるも、イグニールはその黒炎を纏いながら弦一に拳を振り下ろした。
弦一はその拳を避けることなく仁王立ちしながら、小さく呟く。
「凄えな」
その拳は弦一ごと地面を砕いた。弦一のその呟きが英斗に届いたかは定かではない。
静かに四大勢力の1人が陥落した瞬間であった。
「おい、お前らこいつの下っ端だろ。助けてやれ。まだ生きてる」
英斗は、戻ってきた我羅照羅の構成員に声をかける。弦一が負けたことがまだ信じられないのか呆然としていたものの、我に返り動き始める。
「弦一さん、大丈夫ですか!?」
その声を皮切りに構成員達が一斉に動き始める。
「良い戦いだったと伝えておいてくれ」
英斗が言い放つと、ナナも咆哮を上げる。我羅照羅の構成員は誰も言い返せなかった。既に英斗に呑まれていたのであった。
英斗は我羅照羅達のいる中悠然と自室に戻っていった。その後彼らは弦一を連れて静かに去っていった。
英斗は自室に入ってから、ナナを抱きしめる。
「なんかトップは気持ちいい奴だったけど、恨まれてないかな? 大丈夫だと思うんだけど」
英斗はナナの腹部に顔を埋める。ナナは無言で英斗の頭をポンポンとなでる。
「人との戦闘はまだ慣れないなあ。加減間違えたら殺しちゃいそうだし」
英斗はぼそりと呟く。
「もし部下達に復讐に来られても困るし、世田谷ダンジョンにでも行くか。レベル上げもしたいし、ダンジョン製の武器は凄いって聞くしね。けど『イグニール』がちゃんと戦闘でも使えて良かった。次はあのアニメに出てたビーム兵器も生み出したいな。まだレベル足りないのか作れないんだよなあ」
「ワウッ!」
英斗はそう言うと準備を始める。文明が崩壊して初めての遠出である。
皆様の応援のお陰で日間ローファンタジー1位を達成する事ができました。ありがとうございます!
これも全ては読者の皆様のブクマ、評価のお陰です!感想も全て読んでおります、感謝!
次回からは世田谷ダンジョン編が始まります!現代ダンジョンはロマン。