挑戦者の盾
遊馬は傷だらけになりながら、吹き飛ばされながらも懸命に攻撃を防いでいた。未だに、攻撃を一度も完全に受け止めきれてはいないものの、崩れることなく耐えていた。
怯えるな……俺が怯えたら誰が彼女を守るんだ。遊馬はそう自分に言い聞かせながら、あの日以来震える自らの足を必死で動かし戦っている。
「俺は……俺は『雷神』の盾『鉄壁』の遊馬だ! 俺の後ろに攻撃は決して通さん!」
遊馬は叫びつつ盾で突進を決め、ゼルマンティスを弾き飛ばす。大したダメージはないものの、弱者と侮っていた遊馬からの一撃に苛つきを覚えたのか、両鎌を使い凄まじい連撃を放つ。
その一撃一撃で、少しずつ遊馬は後退させられる。
「あ、安心しろ……絶対に守るから……な?」
遊馬が後ろの女に顔を向けた瞬間、女が剣で遊馬の腹部を貫く。女の顔は良くできた綺麗な顔をしていたが、まるで能面のように全く表情は動いていなかった。
遊馬が口から血を吐きバランスを崩した瞬間、ゼルマンティスの大鎌が遊馬の肩を貫いた。
お前、擬人魔だったのか……遊馬はその女の正体が魔物であることに気付く。
擬人魔とは、人間に擬態し探索者を襲う魔物である。戦闘能力はそこまで高くないが、その擬態能力は大変高く気づかない者も多い。簡単な言語も話せるため、知能も高いと言われていた。
ギガマンティスと、擬人魔は互いに手を組むことで人間を狩っていたのだ。
「くそっ! 舐めるなあ!」
遊馬は痛みに耐えつつも踏ん張ると、その剣で擬人魔の首を撥ね飛ばした。擬人魔の首はそのまま地面に転がり落ちた。
擬人魔は倒したが、腹部の傷は深い。だが、ギガマンティスの一撃はそこまで深い傷ではない。遊馬は危機の中で、自分の体を硬化していたからだ。
「ははっ、俺って本当に馬鹿だ。必死で守っていた者が、擬人魔だったなんてな。間抜けもいいところだぜ」
遊馬は血だらけで笑う。
「だが、俺のせいで死ぬ人は居ないわけだ。これで心置きなくおまえと戦えるぜ」
遊馬は逃げる気などない。ゼルマンティスの激しい連撃を受け続ける。防ぎきることはできず、どんどん切り傷が増えていく。だが、遊馬の目は負けていない。
痛みを感じつつ、命がけの戦闘で少しずつ遊馬の動きは全盛期を取り戻しつつある。
「俺は何も守れなかった。そのせいで多くの者を失った。だが、これ以上失う訳にはいかない! これからは俺があいつらを守る! 俺は今『挑戦者』の盾なんだからな!」
遊馬は叫び、魔力を盾に、そして足に込める。ゼルマンティスも渾身の魔力を鎌に込めた一撃を放つ。
盾と鎌がぶつかり合い魔力が弾け、城内が震える。
だが、遊馬は一歩も引くことなく、その場に立っていた。
「英斗、見たか! 遊馬が!」
伽藍は叫びながら、英斗の服を掴む。英斗達は危険を感じ、あの後すぐ遊馬の元へ向かって戦いの行く末を見守っていた。
「ばれるって、伽藍!」
そう言って、英斗は伽藍を押さえしゃがませる。
「ありがとよ、おかげで元の俺に戻れたぜ。恐怖はまだあるが……仲間を失う方がよっぽど怖い」
遊馬はゼルマンティスの元へ走る。ゼルマンティスは完全に防がれたことに動揺しつつも、連撃を加える。
遊馬はそれを全て盾で受け止めつつも、全く減速することなくゼルマンティスの足元まで近づいた。全く弾かれる事なく盾で進める大きな利点は、安全に自分の攻撃圏内まで移動できることである。
遊馬は剣を振るい、当たる直前にスキルで重量を上げる。重くなった剣はゼルマンティスの両脚を斬り落とした。
「ギイイイイイイイイ!」
それによりバランスを崩し、頭部が遊馬の目の前まで下がる。
「俺の一撃は重いぜ?」
遊馬は剣を上から渾身の力で頭部に抜けて振り下ろした。スキルにより直前に何十倍にも重くなった剣がハンマーのようにゼルマンティスの頭部を叩き潰した。
遊馬は死んだゼルマンティスの死体から、DCを拾うと、英斗達が隠れている方向を見る。
「ばれてるぞ、お前ら」
遊馬の言葉を聞き、2人が立ち上がる。
「やっぱり? いつから?」
英斗が立ち上がる。
「伽藍が叫んだところからだな」
「やっぱり、伽藍が騒いだから」
「いやあ、声が出ちまったよ」
遊馬が2人の近くに居る自動人形に気付く。
「ん? 人間……じゃあないな。英斗のスキルで作った人形か。なんでそんなもんが?」
その言葉を聞き、英斗達は顔を見合わせる。まさか遊馬を騙すために生み出しましたともいえない。
「えーっとだなあ、伽藍の奴、彼女が欲しいって言うから仕方なく作ったんだよ……」
英斗の言い訳に、伽藍は英斗の首元を掴み大きく前後に揺らす。
「お前、言い訳にしてももうちょっと良いのがあんだろうがっ!」
「あばばばばば」
それを見て、遊馬が笑う。
「何言ってんだ、お前ら……。まあいいや、途中から戦い見てたんだろ?」
「そうだ。危険になったら、助けに行くつもりではあったが、遊馬が1人で乗り越えられるか確かめさせてもらった」
伽藍がはっきりと告げる。
「あのままの俺じゃ正直足手纏いだったからな。2人の気持ちも分かる。だが、安心してくれ。今の俺ならしっかり防げるぜ。どんな攻撃もな!」
遊馬の自信満々な言葉に、英斗は安心する。
その後、英斗がポーションで遊馬を治療し、夜まで各自訓練に励んだ。
「お疲れ様、久しぶりのソロは神経が研ぎ覚まされるわね」
夜、セーブポイント前に皆が集まった中、高峰が言う。
「確かにな。皆には迷惑をかけたがようやく俺もタンクとして役割が果たせそうだ。今まで迷惑をかけた」
そう言って頭を下げる遊馬。
「良かったわね。これから守りは任せるわ」
『おめでとう、遊馬!』
「これで皆がベストコンディションになった。これからは一気にレベルを上げていこうか」
パーティ『挑戦者』はこれからひたすらレベル上げに励むことになる。