Who are you?
「今日は、26階で個別の鍛錬を積みたいと思う。集団訓練も勿論大事だが、個別の戦闘訓練も大事だと思うからな」
英斗は26階で、皆に告げる。西洋の城の中のような景色が広がる階層である。
「珍しいわね、まあいいけど」
「真面目な話、レベルによる基礎力の底上げだけではイフリートを仕留められるような必殺技は生まれない。あいつを仕留められるような、そんな大技についても今後は考えていかないといけない。そのための個人訓練だ」
英斗はすらすらと言う。これは本当の気持ちである。イフリートを倒せるような技は現状ない。超電磁砲を越える新技を生み出さねばならなかった。
「個人訓練は分かったが、なぜ26階なんだ?」
遊馬が尋ねる。
「36階だとソロだと危険も多いからな。26階でもS級は出るから、そいつと戦うことを主な目的としよう」
英斗の言葉に遊馬も一応の納得はしたようで夜に26階のセーブポイントに集合とし解散した。
皆が去った後、英斗と伽藍は話し出す。
「じゃあ、俺は遊馬を追うから英斗も指定した場所で待機しててくれ」
「ああ。生み出したらすぐ行く」
伽藍は遊馬を追って去っていく。英斗は必死であるものを生み出している。
「精度上げると、やっぱ時間かかるな……。早く生み出していくか」
遊馬は1人で城内を探索している。
「1人での探索なんていつぶりだろうなあ」
先ほどからB級や、A級の魔物を蹴散らしながら進んでいく。遊馬は今の自分がS級を倒せる自信がなかった。
自らが足手纏いの自覚はある。憂鬱な気持ちになりながら、綺麗なカーペットを歩く。
すると、前方で魔物に襲われている人を発見する。足を怪我し、膝をついている女であった。フードを被っており、剣が折れ、項垂れている。
魔物は巨大なカマキリのようなS級魔物『ゼルマンティス』である。その鋭い鎌と、鉄より遥かに硬い体が特徴である。4mを越える巨体に、2mを越える鎌は死神の鎌とも呼ばれている。
まずい、そう感じると体が動いていた。
その鎌が女に向けて振り下ろされる。
「やめろお!」
遊馬は済んでのところで、巨大な盾で鎌の一撃を受け止める。金属音が響くとともに、遊馬は吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
なんとか体を立て直し盾を右手に、両刃のシルバーブレードを左手に握る。
「大丈夫か? 立てるか?」
遊馬はゼルマンティスと女の間に入りつつ尋ねるも、女は小さく首を横に振る。
逃げるのは……厳しいか……遊馬は動けない女を抱えてゼルマンティスから逃げ出すことは厳しいと感じていた。
ゼルマンティスは先ほどの一撃で遊馬を獲物と判断し、その漆黒の巨大な目で見つめていた。
自分が勝てなければ死ぬ者が居る、それがタンク役と知ってはいるものの今の自分の状況を考え、背筋に汗をかく。
ゼルマンティスは再び横薙ぎを放った。遊馬は受け止めるも踏ん張り切れずに再び弾き飛ばされる。その隙に、女目掛けて鎌を振り下ろす。
「さ、させねえよ!」
遊馬はすぐさま立て直すと、剣を伸ばし、なんとか鎌を受け止める。剣で衝撃を吸収することができずに痺れが左手に走る。
毎回弾き飛ばされるせいで、攻撃に移れないのだ。
「皆強いから、俺を責めねえけど……本来タンクってのは決して吹き飛ばされちゃダメなんだ。どっしりと皆を守護できる、そんな存在なんだよ!」
そう言って、遊馬は立ち向かう。だが、その鎌の一撃でまた大きく弾き飛ばされてしまった。
「予定の場所じゃあねえが、英斗の人形も中々精巧だな。本物にしか見えねえ」
伽藍は近くで遊馬の戦いを見守っていた。伽藍は追い詰められた実戦でこそ、活路を開けると信じていた。自分が負けたら人が死ぬ、そのような状況でなら遊馬も以前の鉄壁の防御を取り戻せると考えている。
「だが、勝てるのか……遊馬」
伽藍はじれながらも、仲間の勝利を祈り、見守っていた。
「それにしても、なんで英斗は居ねえんだ。人形を置いた後、どこに行っちまったんだ」
初期の計画では、所定の場所で襲われている自動人形を遊馬に救って貰い、2人は待機という計画であった。
「まあ……いざとなったら俺があのカマキリを両断すりゃいいからいいんだけどよ」
伽藍が激闘を覗いていると、後ろから英斗の姿が見えた。伽藍はそれに気づき、英斗の元へ移動する。
「どこに居たんだ英斗? 人形置いたまんまにしてよ」
伽藍が英斗に尋ねる。
「こっちの台詞だよ。自動人形を配置してあっちでずっと待ってたのに、誰も来ないから来たんだ」
「何言ってんだ。お前の人形はあそこに居たぞ。今も俺達の計画通り、人形を庇って遊馬は戦っている」
「ん? どういうことだ? 俺の自動人形はここにいるぞ」
英斗はすぐ隣にいる自動人形を見せる。そこには英斗の作った女性そっくりの自動人形が居た。
「なっ!? ど、どういうことだ……」
伽藍は動揺を隠せない。ふらふらと英斗の両肩を掴み言う。
「遊馬は、女を庇いながら戦っている。あの女が人形じゃないなら、遊馬は誰を庇いながら戦ってるんだ?」
誰も伽藍の疑問に答えることができなかった。