秘策
翌日からひたすら魔物を狩り続けた。連携も良くなり、1週間経つ頃には63までレベルも上がった。だが、未だに遊馬の調子は悪いままであった。致命傷を負うなどはないが、踏ん張りがきかず、攻撃を受けると吹き飛ばされてしまうのだ。
「俺が入れてくれ、って頼んだのに……。不甲斐ねえ……」
遊馬はそう言って頭を抱える。この状態ではとてもイフリートとは戦えないだろう。
「一週間缶詰めだったし、一度外に出ようか」
英斗達は、遊馬の気分転換を兼ねて、タワーから出る。
外に出ると、まだ昼頃だからか太陽が真上から照らしていた。久しぶりの太陽である。英斗が気になったのは、人の数である。今までより少し人が少ない。多く潜っているのかと思ったが、そうでは無いらしい。
「ああ。最近少しずつ人が減ってるんだ。商売にも影響が出ちまうよ。やっぱり『雷神』の離脱がでかいな」
屋台のオヤジはそう言った。タワーの人が減るということは、スタンピードの魔物が増えるということでもある。
「猶予はあまりない……か」
英斗はそう呟いた。
「『雷神』は皆の支えだったわけだ。別に悔やむことはねえ。それだけお前達が支えだったってことだろ」
伽藍は、暗い顔をする遊馬に言う。
「俺達が支えになればいい。今のトップパーティは俺達なんだからな」
英斗が言う。その日は休暇にして明日集まる事にした。
夕食を食べた後、英斗がナナと宿の一室で寛いでいるとドアをノックする音がする。
「俺だ。少し話いいか?」
ドアの先に居たのは、伽藍である。いつもより真剣な顔をしていた。
「ああ。中に入ってくれ」
「すまねえな」
英斗は宿の椅子を下げ、伽藍を座らせる。
「お酒でいい?」
「いや、今日は酒じゃなくていい。コーヒーをくれ」
「珍しいね」
英斗は、コーヒーを2人分入れると、対面に座る。
「どうしたんだ、伽藍。こんな夜に」
「少しは察しているだろう? 率直に言うぜ、遊馬をパーティから外した方がいい」
「が、伽藍!? 確かに今は調子が悪いが、すぐに――」
「あの状態でイフリートと戦うってのか? 今のあいつなら一撃を受け止めること無く、体を貫かれて終わりだ……」
「それは……」
確かに調子の悪い今の遊馬は、一撃も防げない可能性は高い。
「言葉が足りなかったな。このままじゃ、って話だ。あいつの意志は俺だって勿論尊重してやりてえさ。だが、このままじゃ死ぬための手伝いになりかねねえ。そいつはお前も嫌だろう? 何とかあいつに今までと同じように戻って貰わないとな」
伽藍の言葉に英斗は肩をなでおろす。
「……確かに戻って欲しいけどよ。どうしたらいいか……」
「俺に考えがある――」
伽藍はそう言って話し始める。英斗は話を聞き終わった後、心配そうな顔をしつつも了承した。