挑戦者
「いい関係なんだな。俺の理由は勿論戦う事が好きだからだ! 踏破の比類なき力と財宝にも興味があるしな! シンプルな理由だろう?」
伽藍は大声で言う。
「伽藍って戦うのが好きなのは分かるんだけど、人助けも好きなんじゃない? 野盗退治や魔物退治を率先してやってるって聞いてるけど?」
英斗が尋ねる。
「なに、野盗退治なら殺しも正当化されるだろ? 殺して感謝もされる。良い事尽くめじゃなねえか」
「なに格好つけてるのよ。あんた魔物退治の報酬も全部子供や年寄りに殆ど渡してるでしょう? 隠してるみたいだけどばれてるわよ」
高峰がニヤニヤしながら言う。
「……こんな世界、自分の食い扶持があれば十分だからな。皆今の世界を嘆いているが、俺はこの崩壊した世界が好きだ。こんな自由には、崩壊前にはできなかったからな」
「私もそれには同意ね。自由なこの世界が好きよ。たとえ一部は不自由でも、それ以上に自由があるわ」
「昔は窮屈だった。俺はプロレスラーだったんだ。だが新人にしては強すぎた。虐めを受けてな、それにやり返したらプロレス界から追放されちまった。おかしいと思わねえか? だが、そんなことがまかり通っちまったんだ」
「そ、それは……」
英斗は二の句を継げなかった。
「俺は強さで人を惹き付ける世界に憧れて入ったのに、なんでこうなってしまったんだろうなあ……」
伽藍は上を見ながら呟く。
「だが、今はこの力を自由に使い、人を救えるから嬉しいぜ。どうしようもない馬鹿は、誰かが裁かないといけねえ。けど今は警察も何も機能してねえ。俺は、怖がられても代わりをするつもりだ」
英斗は伽藍のその言葉に、不器用ながらも優しい伽藍の一端を垣間見た。
「伽藍は優しいな。俺も見習いたいくらいだ」
英斗は自分の甘さを感じることが多い。自分の手を汚す覚悟が未だに持てなかった。
「色々話過ぎちまったな。忘れてくれや。酒のあてにもならねえ話だ」
そう言って、酒を呷る。
「最後は俺かな。朝も言ったかもしれないが、仲間の仇であるイフリートの討伐が目的だ。踏破が目的じゃあない。このまま逃げて帰ったら、俺はあいつらに合わせる顔がねえよ。仇を取って初めて今後のことを考えられると思っている。そのためにも一刻もはやく通常通り戦えるように頑張るよ」
遊馬が言う。
「そういえば、このパーティの名前ってなんていうんだ?」
遊馬が当たり前のことを尋ねるように言う。
「それは……」
「何も決まってないわね」
英斗と、高峰はそう言えば決めてなかったという顔で答える。
「元々、タワー踏破するまでの臨時パーティだからな」
英斗が言う。
「リーダーは英斗だろう。決めていいぞ。それとも英斗のスキルから『創造主』とでもつけるか?」
伽藍が茶化すように言う。
「うーん……じゃあパーティ名は『挑戦者』で。イフリートは現状俺達より遥かに強いだろ。俺達は挑戦者な訳だ。常にこの気持ちを忘れないように……」
英斗は言う。
「いいな! 『挑戦者』か。これからどんどん有名になっていくぜ。『挑戦者』はな!」
遊馬が笑う。
皆は再び挑戦することになる。自らより遥かに強い怪物に。