圧倒的強者
35階のエリアボスは強化されたコカトリスであった。英斗一人では苦戦していただろうが、パーティの連携も慣れてきた英斗達は、無事討伐に成功した。
立派な金でできた宝箱と、ダンジョンコインがドロップする。
「おっ、全部で700DCか。いい酒がまた飲めるな」
伽藍が笑って、コインを拾う。
「ドロップアイテムは何かしら」
そう言って、宝箱を開ける。そこには大きな宝石の付いたネックレスが入っていた。高峰はネックレスに鑑定を行う。
『ガナの守護石 E
状態異常を防ぐことのできるネックレス。古来は王が着け、石化や混乱、狂化などから身を守っていたと言われている』
「状態異常を防ぐネックレスですって。誰かつけた方がいいんじゃない?」
高峰がそう報告する。
「ネックレスなんて俺はつけねえよ」
伽藍が言う。
「高峰が一番似合うんじゃない? それに伽藍と高峰が前線だからな、うちは。攻撃も受けやすいだろう」
そう言われて、しばらくネックレスを見つめていた高峰は、ゆっくりと手に取った。
「じゃあ、私が貰うわ」
「高峰も鑑定官の指輪持ってるんだな」
英斗が言う。
「私のは鑑定神の指輪よ。それよりランクも上で、E級だし。未だ鑑定できなかったものが無いし、中々便利よ」
どうやら英斗の品よりいい物らしい。少しどや顔である。
「便利そうだなあ、それは。俺のより色々情報が多いの?」
「鑑定官より多くの情報が確認できるわよ」
「今日はもう36階で休もうぜ。疲れたぜ、俺はよ」
「そうしますか。一度戻る?」
英斗が2人に尋ねる。
「うーん……雷神より先に行くつもりなら、戻らない方がいいんじゃない? 今あちらが、どこまで行ってるか分からないけど」
高峰が言う。
「じゃあ。中で休みましょう」
「よっしゃ。自販機で酒でも買おうかね~」
そう言って、伽藍はうきうきした足取りで36階へ向かう。その夜は自販機で購入した酒と、高峰が作った料理に舌鼓をうち穏やかな日であった。
翌日、英斗達は36階の探索に向かう。36階はなぜか今までと景色が変わっていない。31階と変わらない地下遺跡である。
「遂に景色も変わらなくなっちまったな。まあやることは変わらねえ」
伽藍が呟く。
英斗達は上階を目指して進む。魔物の平均ランク自体はやはり上がっている。だが、英斗達はそれをものともせずに先へ進んでいく。
37階へ上がり進んでいると、英斗はなにか違和感を感じる。
「どうかしたか?」
伽藍が英斗に尋ねる。
「別に。なんか違和感があってなあ」
「確かに、いままでより少し息苦しいような気がすんな。火山エリアが近いのかもしれねえぜ。前どこかのダンジョンで行ったことがあるが、あそこは面倒だった」
「ありえるな」
話しながら探索をしていると、遠くに雷神の4人組を見つける。
「おっ、また会ったな」
「剣を構えてるな。戦闘中かな?」
『雷神』達の顔は真剣そのものであった。何か様子がおかしい、そう思い英斗達はすぐさま戦闘態勢をとる。
雷神達が相対している魔物が、壁から出てきた瞬間英斗達は凍り付いた。
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死。
英斗の脳内が死の一文字で埋め尽くされる。全身から汗が吹き出し、手は震え始める。本能的に分かったのだ、自分では勝てない圧倒的強者であると。
全身に炎を纏った巨大龍である。全長は15m程だろうか。2本のマグマを固めたような禍々しい角を頭部に、背には燃えている巨大な翼が生えている。
その鋭い眼光に睨まれるとどんな強者も死を覚悟するだろう。
そして圧倒的などす黒い魔力が、格の違いを伝えていた。
英斗は姿を見ただけでパニックに陥り、過呼吸に襲われる。
勝てない、逃げないと、そう思いながら横を見ると高峰も真っ青になって腰を抜かしていた。
「イ、イフリート……SS級よ……」
震える声で、高峰は言った。