まさに雷神
階段を上がった先には、いつものように洞窟の中、そして近くにはセーブポイントである。31階を開放する。
「一旦戻る? それともこのまま――」
「「『先に行く!』」」
皆の声が揃った。そして英斗達のパーティはそのまま先に進む。長い洞窟を抜けた先は、広大な遺跡が広がっていた。
石で造られた階段や、家がそこら中に点在している。まるで世界遺産の地下遺跡のような風景である。
「これは中々……ロマンがあるな」
伽藍が呟く。
「宝箱とかありそうですねえ」
『探す?』
「それもいいかもね」
普通の地下遺跡と違うところは、魔物がそこら中に居るところである。どうやら普通に魔物達が生活しているような感じがした。
「あれ、ゴブリンじゃない?」
高峰が指差した先に居たのはゴブリンである。通常ダンジョンは上の階に上がればゴブリンなど低ランクの魔物はあまり見ない。この階は、ゴブリンや、オーク、そしてB級魔物のゴールデンゴーレムなど多様な生態系を築いているようだ。
「まあ、弱い分には問題ねえだろ。行こうぜ、古代の宝物でも探そうや」
そう言って伽藍が歩き出す。皆伽藍の後に続く。
そして伽藍の姿をゴブリンが知覚する。するとゴブリンは短剣を熟練の剣士のように無駄のない動きで伽藍に向ける。
その動きだけで伽藍は感じ取る。ただのゴブリンでは無いと。
次の瞬間、ゴブリンは凄まじい速さでレイピアのように短剣を使い、伽藍の首元に突きを放つ。
驚きつつも、伽藍は大剣を横にしてその突きを受け止める。金属音が遺跡に響き渡る。ゴブリンは仕留められなかった後すぐにしゃがむと、伽藍の足の腱を狙い、横薙ぎを放つ。無駄のない敵を仕留める動きである。
伽藍は跳び回避すると蹴りを放つ。ゴブリンはその蹴りを両腕で受け止めるも、鈍い音がした。片腕が青く腫れあがり、曲がってはいけない方向に曲がっている。
「なんだ、あいつは……ただのゴブリンじゃねえ」
英斗は鑑定を行う。
『ゴブリン F+級
緑色の肌をした醜い小人。成人男性よりは力が弱い。冒険者たちの初めて戦う魔物であることが多い』
鑑定すると、ランク部分に+がついている。通常より強いのは分かるが、鑑定結果は通常のゴブリンの何ら変わりない。
再び突きを放ったゴブリンを、伽藍は大剣の一薙ぎで斬り裂いた。
「結構強かったぞ……。どうなってんだ?」
「おそらくこの階の魔物は通常より強くなっているんでしょうね。そうじゃないと、ゴブリンなんてこの階に居ても、他の魔物に食われて終わりよ」
「強化されてるってことか……。ハハ、おもしれえじゃねえか」
その後オークとも一戦交えたが、通常よりかなり強かった。ハイオーク並である。
「強化はされてたけど、ゴブリンほどじゃなかったな」
英斗が言うと、皆首を振る。
「弱い魔物程、強化を受けているのかも。皆さっきのゴブリンほど強化を受けていたら、S級は怪物よ」
高峰が苦笑いをする。
その後も魔物達と戦うが、どの魔物も強くなっている。今までの感覚で戦うと、足をすくわれるだろう。
「それにしても広いな……。しかも上の階に上がる以外にも階段があるから、どこから上にいけるのかさっぱり分からん」
遺跡の階段と、上に上がる階段の違いが分からず、ひたすら遺跡探索をする羽目になっていた。
結局半日近く探索し、ようやく上階への階段を見つける。他の階段に比べて遥かに階段の段数が多いこと以外特に違いがないため大変分かりにくかった。
32階へ上がるも景色はやはり変わらない。結局上がってすぐの場所に家を建て眠りに着いた。
次の日、英斗達は再び探索を開始する。しばらく歩いていると、遺跡が壊れる音がした。
敵を可能性を考慮し、全員武器を構えつつ、そちらに向かう。英斗達の考え通り魔物は居た。そして、『雷神』のメンバー達も。
雷神たちは、下半身は巨大な蛇、上半身は四本腕を持つ女性の魔物と戦っていた。
『ナーガラージャ S+級
蛇神とも言われ一部の者に崇められている。その強靭な下半身からされる締め付けは、コカトリスすら絞め殺すと言われている』
英斗は鑑定結果を見て、警戒心を強める。ここで出たということはただのS級ではないと思ってはいたが、やはり+がついていた。
「状況によっては手助けに入ろう」
英斗はそう言うと、皆も顔を頷かせる。
遊馬は英斗達に気付くと、呑気に手を振り始める。
「英斗、遂にここまで来たのか! やったな!」
「おい、戦いに集中しろ!」
思わず、英斗は叫んでしまう。
「ああ、じゃあすぐに終わらせるわ」
ナーガラージャはその蛇の下半身を硬化させると、槍のように遊馬に尻尾で突きを放つ。遊馬は全長1m程のヒーター型の盾で受け止める。
凄まじい轟音が響き渡るも、遊馬はその場から一歩も下がる事なく攻撃を受けきった。驚いたナーガラージャは尻尾を何度も遊馬に向けて叩き付けるも、一歩も動くことなく全てを受け止める。
「エクセリア、頼むぜ」
「お客さんも来たことだし、本気見せようかな?」
エクセリアはそう言うと、レイピアの先を天に向けるように持つと、祈るように目を閉じる。次の瞬間には、そのレイピアには雷が纏われていた。
「雷光刺突」
その唄うような呟きと同時に目にもとまらぬ速さで、エクセリアがナーガラージャの上半身の目の前まで移動すると、突きを無数に放つ。
その刺突の威力は凄まじく、一撃ごとに、ナーガラージャの上半身に巨大な穴が空く。一瞬で穴だらけになり、最後には頭部が消し飛ばされ、静かに倒れ落ちる。
エクセリアは、そのまま着地すると笑顔で手を振る。
「ここまで来たんだね、英斗! おめでとう!」
だが、英斗にはただ雷神が勝利した安堵だけでなく、凄まじいエクセリアの戦闘への驚きがあった。
「英斗、見えたか?」
静かに伽藍が英斗に尋ねる。
「いや……殆ど見えなかった……あれがトップ……まさに雷神ってわけだ」
エクセリアの攻撃力もさることながら、雷を纏う事で可能となる光速移動がまさしくチートであった。
「あそこまで強い人間は初めて見るわ……」
高峰もその強さに小さく汗をかく。その日、トップを走っていたと思っていた英斗達はまさしく鼻を折られたのであった。