託されるはその心
翌日、タワー前で英斗とナナが2人を待っていると、傷だらけになった妻夫木のパーティがタワーから現れた。
皆ボロボロになっており、半分以上いなくなっていた。先頭を歩く妻夫木の目線はうつろであったが、英斗の姿を見つけふらふらとやってくる。その様子だけで、英斗は結果を察する。
「月城さん、貴方の言う通りでした……。私は……ダンジョンと言うものを、甘く見ていたのかもしれません。何人も、何人も、無駄に死なせてしまいました!」
妻夫木は足を引き摺りながら悔しそうに、英斗の服を掴んで叫ぶ。英斗は何と言っていいか分からなかった。
「……お疲れでしょう。ゆっくり休んでください。俺達が必ず仇は取りますから」
英斗はそう言って、妻夫木の肩に手を置く。話していると、伽藍と高峰も合流してきた。
「やっぱりパーティを組まれたんですね。私達の分も……頼みます。私が死なせた彼等が無駄にならないように……」
そう言って、妻夫木が英斗の胸をとん、と叩く。それは弱弱しく、妻夫木の現状を表しているかのようだった。
「……はい、託されました。だから安心して休んでください」
英斗は妻夫木の手を掴み、言う。英斗の言葉に安心したのか、妻夫木は少しだけ表情を和らげる。そして彼等はふらふらと消えていった。
「あいつはまだよくやった方だ。あのレベルの者達を引き連れてあれだけ生還させればな。もっと死んでもおかしくないレベルだった。まあそもそもの作戦は良くなかったと思うがな……」
と伽藍が呟く。S級をソロで狩れる者は初め1人しか居なかったはずである。であれば、今回のエリアボスは相当きつかったはずだ。
「それにしてもいいの? あんな簡単に託されちゃって?」
と高峰が言う。
「青犬の無念も、妻夫木さんの無念も全て背負って、俺達は踏破する。そのために俺達は組んだんですから」
「ははっ、ちげえねえ! 頼んだぜ、リーダー!」
そう言って、伽藍は英斗の背中を叩く。
「行きましょう」
こうして、英斗達のパーティは再びタワーへ上る。
4人になった英斗達に隙は無く、順調に数日で30階までたどり着いた。
「いやー、本当に英斗のスキルは便利だな。食も住も下とほとんど変わらねえんだからな」
伽藍は、ログハウスで寝転がりながら言う。明日に向けて鉄の扉の前にログハウスを作り休んでいた。
「それは本当にそう思うわ。一家に一台、と言えるスキルよ」
と美しい所作で食後のティータイムをしている高峰。勿論そのお茶は英斗が出している。
「高峰、家いいところだろ。お嬢様だな?」
伽藍は高峰の様子を見て何げなく言う。
「……まあね。うちはいいとこだったと思うわ」
高峰は興味なさげに言う。
「その美しい動きは一朝一夕では身に付かねえ。幼い頃から厳しい躾を受けてねえとなあ。高峰という苗字で金持ちって、高峰財閥のご令嬢か?」
と伽藍が冗談めかして言う。軽い世間話のつもりだったのだろう。だが、その言葉を聞いた高峰の表情が固まる。
「おっと……冗談のつもりだったが、まじかよ……」
伽藍も驚いているようだ。高峰財閥とは、四大財閥の1つである。子供ですらその名を知らない者はいない程の知名度を誇っており、あらゆる事業を手広く行いグループ従業員総勢は100万人を超える程だ。
「過去の話よ。こんな世界になったら財閥の何もないわ。財閥のトップである父も行方不明のまま。まあ、あいつは殺しても死なないような人だけど」
そう言ってため息を吐く。どうやら仲はよろしくないようだ。
「お嬢様の割に随分たくましいな」
「女の私なんて、あまり役に立たないしね。お爺ちゃんの家に預けられてたから。会う事もあまりなかったし。おかげで自由に生きられてよかったけど」
やはりお金持ちにはお金持ちの大変さがあるらしい。
「皆色々あるよな。じゃあ明日、エリアボスに挑むということでいい?」
「おう」
「いいわ」
『はーい』
明日、新生英斗パーティは多くの者を拒む鉄壁の30階エリアボスに挑む。
「お前ら遂に組んだのか。皆ソロかコンビの異色の奴らが……」
そう言ったのは、トップ層のパーティ『ジャイアンツ』のジャイアント工藤である。
「工藤さん、俺達も落ち着こうかと」
と言って英斗は笑う。トップ層の者とはよく上階で会うため、自然と顔見知りになる。ちなみに工藤の本名は仲間すら誰も知らないらしい。
「俺も英斗の事は狙ってたのによおー」
と悔しがる工藤。
「えっ、どうせ私のご飯目当ての癖に。男っていつもそうね」
そう言って英斗は両手で胸を隠す。
「体目当てみたいなリアクション止めろ! お前の万能さはどこも欲しがるだろうよ。だが、皆ソロで30階までくる実力者……期待してるぜ」
そう言って、工藤は笑って親指を立てる。
「お任せあれ」
英斗も親指を立て応える。
ジャイアンツは一度地上に戻るらしくそのまま別れた。
「じゃあ、行こうか」
英斗は鉄の扉を開け、中に入る。久しぶりに死闘になるだろうな、と英斗は高ぶる気持ちを抑えて中に消えていった。