スカウト
「やっぱ無理だったか」
とにやにやしながら伽藍が言う。
「何よその顔! 貴方に言われたくないわよ!」
と高峰が怒った顔で言う。
「何匹殺せた?」
と伽藍が真面目な顔で言う。
「……1よ」
言い辛そうに高峰が呟く。
「俺は2だ! 俺の勝ちー!」
と伽藍が両腕を上げて勝ち誇る。
「勝てなきゃどっちも一緒でしょうが!」
と2人が揉め始める。かたや女子高生、かたや巨体のおっさん、謎の組み合わせである。ひとしきり揉めた後冷静になった2人が話し合う。
「確かにあれソロはきついわね……。ここを越えた雷神が4人パーティなのも納得よ」
まだ入っていない英斗は何のことかいまいち分からないが、話の内容から敵は複数体いるように感じる。
「英斗。お前が行くときだけナナちゃん連れて行くのずりいぞ。お前だけ複数なんて」
と伽藍が言う。
「いやいや、全然ずるくないですよ! 貴方達2人くらいですよ、ソロなんて! 26階以降は皆4~5人パーティだったじゃないですか」
英斗は突然の謎の指摘に反応する。
「まあねえ……」
その言葉には高峰も納得のようだ。
「だけど、俺はこのタワーに来てパーティメンバーに誘われた事ないぜ。俺達は需要がねえんだろうか?」
「私は良く誘われてるわよ! 伽藍さんと一緒にしないでくれるかしら!」
高峰が一緒にするな、と言わんばかりに叫ぶ。
「だけど、結局組むに値する奴等じゃねえと組めねえよなあ。命預けるんだからよ」
と伽藍は真面目な顔で言う。
「そのとおりね。足手纏いを背負って山を登る趣味はないわ」
その意見は一致のようだ。
「俺達は一度26階まで降りるけど高峰はどうする?」
「……一度私も降りるわ。今すぐ突破できそうな雑魚じゃあなかったし」
こうして青犬護衛のために強者3人が集まる事となった。
尾形が普通に動けるようになるまでに1週間程であった。その間に多くのトップ層のパーティがエリアボスに挑んだが、結局誰もここを抜けることは無かった。
「本当に迷惑をかけたね、月城さん。この恩は必ず返す」
「いえいえ、それでは戻りましょう。豪華メンバーで護衛しますよ」
そう言った目線の先には、伽藍と高峰が居る。
「お二方ともありがとうございます」
「ほんまにありがとうございます」
尾形とユートは深々と頭を下げる。
「別に気にすんな! どうせタワーは早いもん勝ちって感じじゃねえしな」
「ついでですから」
伽藍と高峰は笑顔で返す。こうして26階へ戻る旅が始まる。
とは言えど、ユートの耳を使うとだいたいの敵は回避できるうえに、他の面子も強いため余裕で降りる事が出来た。
29階の途中で、千代田ギルドマスター妻夫木 によるパーティとすれ違う。
「月城さん、伽藍さん、高峰さん! 遂にパーティでも組まれたんですか?」
「いや、そう言う訳ではなんですけど、色々ありまして」
英斗は頭を掻きながら言う。
「まあ、仲が良いのは良い事です。私はここを踏破して欲しいだけですから」
妻夫木が穏やかに言う。英斗が後ろを見ると50人居たパーティが10人以上減っている。ここに来るまでにも犠牲が出たのだろう。
「妻夫木さん、30階のエリアボスは本当に強いんです。無理はされないで、時には撤退も視野に入れて下さい」
英斗は失礼を承知で言う。嫌われてでも死んでほしくなかった。
「なるほど……ありがとうございます。ですが、大丈夫です、うちも精鋭ですから!」
そう言って、妻夫木は力こぶを見せつけるようにして言う。
「どうか、ご武運を」
そう言って、妻夫木のパーティ、もとい軍と別れる。
「あいつらボスと当たったら殆ど死ぬぞ」
戦った伽藍がそう言うのだ、可能性は高い。
「けど、人間実際に戦わないと納得はしないでしょうね」
と高峰が言う。人は信頼関係の無い人間から言われた言葉を全面的に信用などしない。英斗は心配しつつ、一人でも無事でいることを願った。
英斗達は無事26階まで戻りそのままセーブポイントから、地上に戻った。
久しぶりの地上は気持ちよく、ダンジョン内では張りつめていたことが感じられた。
「本当に皆さんにはお世話になりっぱなしだった。感謝します」
と尾形が頭を下げる。
「ありがとうございます。お礼も大したものはないんやけど、残りのDC全部渡すから3人で分けて下さい」
そう言って、ユートがDCを取り出す。
「それはお前たちのパーティが命がけでとってきたもんだ。お前達が大事に使ってくれ。礼ならまたいっぱい奢ってくれや!」
と伽藍は豪快に笑いながら言う。
「私はほとんど何もしてないし、要らないわ」
「友人として、ギルドマスターとしてやっただけですから。これからどうされるおつもりですか?」
「一旦、杉並区に帰るよ……。俺達はもうリタイアだ」
悲しそうに、尾形は言う。
「そうですか。お気をつけて」
英斗はそれ以上言葉を紡げなかった。青犬は大学生グループが派生したクランと聞いている。長い付き合いではあったのだろう。友人の喪失の悲しみは本人にしか分からないものだ。
「ああ。世話になったな」
そう言って、尾形とユートはダンジョンタワーから去っていった。
尾形達を見送った後今後について考えた英斗は、2人に切り出した。
「伽藍さん、高峰、一緒にパーティを組みませんか? このダンジョンを本気で踏破するために」