順番待ち
階段を上がると、いつもの洞窟の中である。洞窟を抜けると、西洋の城の中のような景色が広がっていた。
「えっ? 今までと随分雰囲気違うな……」
英斗が周りを見渡すと、漆喰で塗り固められた真っ白い壁が広がっている。上には豪奢なシャンデリアに火が灯されており、壺や絵画が置かれている。
『凄いねー』
ナナもその豪華さに驚いている。
雰囲気にのまれたが、いつものダンジョンと変わりはない。英斗達は歩を進める。
歩いていると、飾られている甲冑達の目が光り始める。同時に、剣と盾を持ち英斗に襲い掛かってきた。
『デスナイト A級
主を守れずに死んだ騎士の魂が宿った鎧。美麗な剣術は剣士をも驚かせる』
「おいおい……数が多いんじゃないか?」
その鎧の数は優に10を超える。流石は26階である。巨大な鉄壁を生み出し、すぐさま逃げ出す。26階は迷路のように様々な通路があった。英斗とナナは逃げながら、階段を探す。
すると突然英斗の足に糸が巻き付いた。糸の先を見ると、巨大な毒蜘蛛がこちらを見つめているではありませんか。
「ハロー」
英斗は謎に挨拶をする。勿論返事はない。返事の代わりに、口から更に糸が吐かれる。
「クソっ!」
英斗は白鬼刀で糸を切り裂くと、巨大な炎槍を蜘蛛にぶつける。
『女王白脚蜘蛛 A級
白脚の巨大蜘蛛を見たら逃げろ、と言われている魔物。手下の白脚蜘蛛を使い、人を捕まえ、人から栄養を吸い、子供を産む』
鑑定結果から嫌な予感がして周囲を見渡すと、少し小さめの白脚蜘蛛が大量に居た。
「うえええ……」
次の瞬間、ナナが白脚蜘蛛を凍り漬けにする。女王も深手を負っているが、まだ死んでいない。
英斗が刀を構え、女王白脚蜘蛛に狙いを定めた瞬間、風の刃が英斗を襲う。
「なっ!?」
英斗は何とか刀で受け止めるもそのまま壁に叩き付けられる。
「豪華面子だねえ……26階は」
英斗の目線の先には、S級魔物グリフォンの姿があった。
『グリフォン S級
鷹の翼と上半身、ライオンの下半身を持つ魔物。高い知能を有し、鋭い爪と嘴、風魔法を操る』
その鋭い目は英斗を獲物として認識している。全長4mを越える巨体は一般人なら動けなくなるであろう威圧感を備えていた。
「俺を獲物として見るとは……後悔させてやる」
英斗はそう言うと、手を地面につける。
「千蛇鎖!」
地面から大量の鎖が生み出され、グリフォンに襲い掛かる。グリフォンは鋭い爪と、風魔法で鎖を切り裂く。
が、そのうちの1つの鎖がグリフォンの足に巻き付いた。巻き付いた時には英斗は既に動いていた。
「神の鉄槌」
英斗はグリフォンの頭上に放っていた鎖から巨大な腕を生み出し、そのまま振り下ろす。掌だけで長さ5mほどある驚きの大きさから放たれる一撃は凄まじく、グリフォンを叩き潰した。
『こっちも終わったよー』
後ろを見ると、ナナが 女王白脚蜘蛛を凍り漬けにしていた。
「普通にSが出るとは、世田谷ダンジョンを思い出すな。勘を取り戻すぞ」
そう言って、ナナと城内を駆ける。更なる強さを、高みを求めて。
26階に来てから1週間後、英斗は30階にまでたどり着いていた。未だに城内の中であったが、魔物達の強さは中々のもので日々死闘が続いている。英斗のレベルも60に到達した。
「そろそろ……30階のエリアボスか。雷神以外のパーティももう30階超えたのかねえ」
『かなり強いんでしょう?』
「らしいけど。暗黙の了解というか、あまり最新階の情報は共有しないんだよ。皆自分が最初に踏破したいからな。情報を買うってのはあるみたいだけど」
『皆で協力しないんだね?』
「個人のために動いてる者がやっぱり多いんだろうな。もしかしたら遊馬やエクセリアに聞いたら教えてくれるかもしれないけど……自分で見たいしな」
初見殺しなら、すぐに逃げればいいと考えていた。
そしてようやく30階のエリアボスの鉄の扉へとたどり着いた。だが、既に誰かが入っているのか扉の前で伽藍が座っていた。
「おう、英斗も来たのか。残念ながら次は俺だぜ!」
と元気に言う。
「どうぞどうぞ。既に誰か入っている感じですか?」
「ああ。そいつらが勝つか、死ぬか、ここから逃げるまで決して開かねえ」
「やっぱりそうなんですねえ」
「なんだ、お前ダンジョンの仕組み知らねえのか?」
「昔潜ったんですけどあまり人と鉢合わせることがなくて」
「……ほう。人の多いダンジョンじゃこんなことは日常茶飯事だ。さっきの奴らが入ったのは20分くらい前だ。じきに終わるはずだ」
英斗もナナと座って前のパーティが終わるのを待つ。しばらくして扉が開いた音がした。
「お、開い……えっ!?」
英斗は驚愕の声を上げる。扉から出てきたのは英斗もよく知る者達だったからだ。